企業会計の応用講座
第10回 外貨換算会計 II
2008.01
前回は、企業が外貨建取引を行なう場合の処理の基本について解説しました。しかし、外貨建取引には、為替変動に伴って為替差損益が生じ、これが企業の経営成績や事業計画の遂行に少なからぬ影響を及ぼすという問題があります。このような為替変動リスクを回避する手段として、デリバティブ取引が多く利用されています。今回は、こうした為替変動リスク回避のためのデリバティブ取引について解説します。
為替変動リスク回避のためのデリバティブ取引としては、「先物為替予約」、「通貨先物」、「通貨スワップ」、「通貨オプション」があります。
1.先物為替予約
先物為替予約とは、特定の外国通貨を、将来の一定の時期において一定の価格で受け渡すことを、現時点において約定する取引をいいます。取引の相手は外国為替銀行であり、相対取引です。言いかえると、将来において、現在決定した価額(為替レート)で外貨を購入することを約束する取引です。
(例)
4月1日現在、為替相場は1ドル=110円、現在円安が進行中という状況の中で、1,000ドルで商品を外国から仕入れた。支払日は6月30日。
この時、6月30日には1ドル=120円まで円安が進むと予想した場合、日本円換算時の支払額が、4月1日に支払った場合に比して、110,000円から120,000円に増加してしまう。このリスクを回避するための手段として、4月1日に、6月30日を受渡日とする米ドル買い為替予約(先物為替相場1ドル=115円)1,000ドルを締結した。この結果、6月30日の実際の為替相場がどんなに円安になろうと、支払額は円ベースで115,000円に固定されることになる。仮に、6月30日の為替相場が、当初の予想通り1ドル=120円だとすれば、先物為替予約を行なったことによって、120,000円−115,000円=5,000円の損失を回避できたということになる。
|
上記の例は、先物為替予約によるリスクの回避が成功した例です。但し、予想に反して受渡日が円高になってしまった場合には、為替予約を締結しない方が、支払額が少なくてすんだというような結果になる可能性もあります。それでも企業が為替予約等を利用するのは、経営活動においては、為替変動リスクの発生を極力防いで、事業の遂行や資金繰りを安定させることが重要だからであるといわれています。
2.通貨先物取引
通貨先物取引とは、上場されている標準物(外国通貨)を、将来の一定の時期において一定の価格で売買することを、現時点で約定する取引所取引のことです。先物為替予約に類似していますが、取引所で取引されるため取引条件が定型化されていること、通常は差金決済(為替予約は、約定日に予約額全額の受渡しを行なう)である点が相違点です。
3.通貨スワップ取引
通貨スワップ取引とは、二当事者が異種通貨間で金銭債権債務の元利相当額に係る将来のキャッシュ・フローの交換を合意する取引を言い、具体的には外貨建金銭債権債務の元利を円建金銭債権債務の元利と交換する形で行なわれます。例としては、ドル建で社債を発行し、利息の支払と元本の償還について通貨スワップ契約を締結することによって、将来の支払額を円貨ベースで確定させるといった取引があります。余談ですが、世界で最初の通貨スワップ取引は、1981年のIBMと世界銀行の間で結ばれたものであり、世銀が米ドルを払いIBMがスイスフランを払うというものだったそうです。
(例)
A社が長期の資金調達のために社債を発行することになった。発行条件がもっとも有利になるのはユーロ市場でドル建て外債を1億ドル発行する場合との結論が出たが、調達資金は円貨で使用するため、ドルを円に転換しなくてはならない。また、利息や元本の支払はドルで行わなければならない。そこで、為替変動リスク回避のために、円の金利を4%、ドルの金利を5%とし1ドル=100円とする通貨スワップ契約を結んだ。この契約により、A社は社債発行時には100億円を円で受け取り、償還時には100億円を円で支払う。また、利払い時には以下のような取引が行われることになる。
|
これにより、A社が実際に支払う金利も円ベース4%となり、実質的に円ベースで社債を発行したのと同様の結果となる。
4.通貨オプション取引
通貨オプション取引とは、特定の外国通貨を将来の一定の時期において一定の価格で受け渡す権利を売買する取引をいい、行使選択権付先物為替予約とも言います。外国通貨を購入する権利をコール・オプション、外国通貨を売却する権利をプット・オプションといい、いずれもオプションの買い手である企業が売り手である銀行にオプション料を支払うことにより取引が成立します。先物為替予約と異なる点は、受渡日になって、実際の為替相場が予想と異なり、予約を行なわない方が良かったような場合に、オプション料をあきらめれば、実行しなくてもすむということです。
(例)
B社は、現在1ドル100円の為替相場が、近く105円程度の円安になると予想している。しかし、為替相場の予想は難しく円高の可能性も捨てきれない。そこで、 ドルを買ってしまわずに、ドルを買う権利のみを買うことにした。具体的には1ドルを100円で買う権利を、1ドルにつき2円で買う通貨オプション契約を結んだ。こうしておけば、1ドル=102円以上の円安の場合には権利を行使すれば利益が出ることになる。また、1ドル=100円以下の場合には、権利を行使せずに オプション料のみをあきらめれば、1ドルにつき2円以上の損失をこうむることはない。
