企業会計の応用講座
第9回 外貨換算会計 I
2008.01
現在、わが国の多くの企業は、様々な物資の輸出入や外国人投資家向けの社債発行による資金調達など、頻繁に海外との取引を行なっています。こうした取引の結果生じる外貨建(例えばアメリカなら米ドル、イギリスならポンドになります)の損益や資産・負債を、日本国内の財務諸表に計上する際には、為替相場を用いて円建てに換算する作業が必要となります。今回は、企業が外貨建の取引を行う場合の処理の基本的な方法について解説します。
I.外貨建取引の換算の基本事項
1.換算に用いる為替レートについて
外貨建取引を円建てに換算するに当って、企業会計上利用される為替レートには次のようなものがあります。
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(1) |
取引時の為替相場(HR、Historical Rate)…取引発生時における為替レートです。 |
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(2) |
決算時の為替相場(CR、Current Rate)…決算日あるいはその前後の平均による為替レートです。 |
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(3) |
一定期間の為替相場の平均(AR、Average Rate)…例えば期中における平均為替レートがあります。 |
2.外貨建取引の原則的処理
外貨建取引は、原則として取引発生時の為替相場で処理します。これを身近な例で考えてみましょう。私たちが海外旅行に出かけて、10ドルで売られている商品を買おうとしたとします。この時、財布に日本円しかなければ、その日のレートで両替をしてドルで買えばよいわけです。仮にこの日の換算レートが1ドル=110円ならば、私たちは1,100円を10ドルに両替して買物をすれば事足ります。私たちはこの時,日本円で1,100円の買物をしたのと全く同じことになります。これを仕訳で示せば、
(借方) 商品 1,100円 (貸方) 現金 1,100円
となり、特に難しいことはありません。これは、取引と決済(支払)が同時に行なわれているため、為替変動の影響がないためです。これは、企業が取引を行なった場合も同様であり、特にこれ以上の処理は必要となりません。
しかし、実際の企業の活動においては、このように取引と決済が同時に行なわれることはむしろ稀であり、更に、取引と決済の間に決算を行なって、決算時の財政状態や経営成績を示さなければならない場合もあります。こういった場合の企業会計上の処理を解説します。
(設問1) 取引と決済の間に決算を挟まない場合
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(1) |
×1年8月10日(当日の為替相場1ドル=110円)に、100ドルの商品を仕入れた。代金の決済は8月25日である。 |
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(2) |
×1年8月25日(当日の為替相場1ドル=113円)上記(1)の代金の決済を行なった。 |
この例の場合、商品の購入時には11,000円の商品を購入したことになりますが、支払った代金は11,300円ということになります。この300円の差額は「為替差損益」という科目で処理され、為替の変動により生じた費用として捉えられます。(1)、(2)の取引を仕訳で示すと以下のようになります。
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(1) |
取引日 |
(借方) |
仕入 |
11,000円 |
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(貸方) |
買掛金 |
11,000円 |
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(2) |
決済日 |
(借方) |
買掛金 |
11,000円 |
(貸方) |
現金預金 |
11,300円 |
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為替差損益 |
300円 |
(設問2)取引と決済の間に決算を挟む場合
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(1) |
×1年3月10日(当日の為替レート1ドル=110円)に、100ドルの商品を仕入れた。代金の決済は4月10日である。 |
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(2) |
×1年3月31日(当日の為替レート1ドル=115円)、決算日を迎えた。 |
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(3) |
×1年4月10日(当日の為替相場1ドル=113円)上記(1)の代金の決済を行なった。 |
決算日には、決算日現在の企業の財政状態を貸借対照表で示さなければなりません。このために、設例1とは異なる処理が必要となります。先に仕訳を示すと、
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(1) |
取引日 |
(借方) |
仕入 |
11,000円 |
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(貸方) |
買掛金 |
11,000円 |
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(2) |
決算日 |
(借方) |
為替差損益 |
500円 |
(貸方) |
買掛金 |
500円 |
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(3) |
決済日 |
(借方) |
買掛金 |
11,500円 |
(貸方) |
現金預金 |
11,300円 |
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為替差損益 |
200円 |
となります。設例1との最大の相違は、決算日に、決算日レートを用いて評価をやり直している点です。これは、決算日の時点でより正確な買掛金の額を示すためには、少しでも決済日に近い時期の為替レートを用いることが合理的と考えられるためです。この設例では、決算日に円換算した結果、債務額(買掛金)が増えてしまったため「為替差損益」として費用処理しているのに対し、決済日においてはその増えてしまった債務の決済が実際にはもっと少ない支払いで済んだため差額を「為替差損益」として収益処理を行うことになり、いずれも損益計算に影響を与えることになります。
このような決算日における換算は、例に挙げた買掛金のみでなく、売掛金、貸付金、借入金などの、将来において決済日の為替レートで決済が行なわれる外貨建の金銭債権債務について必要な処理となります。
II.為替変動リスクと為替予約
「I」で解説したように、外貨建取引には、為替変動に伴って為替差損益が生じ、これは企業の経営成績や事業計画の遂行等に少なからぬ影響を及ぼします。これを一般的に為替変動リスクと呼んでいます。為替変動リスクを回避する手段としては為替予約、通貨先物、通貨スワップ、通貨オプションなどのデリバティブ取引(金融派生商品、すなわち株式、債券、通貨、金利といった原資産から派生した商品による取引の総称です)が用いられます。これらを用いたリスク回避の内容については次回解説いたします。
