経営管理指標の分類と内部管理における活用
2004.11
〜経理財務部門の視点を中心に〜
現在、わが国の多くの企業が中期経営計画等において経営管理指標を導入していますが、経営管理指標を有効に活用するためには、それらの理解のみならず具体的な施策への落とし込みが必要です。以下、はじめに主な経営管理指標の概要、歴史的変遷、活用事例を中心に述べ、次いで内部管理のための経営管理指標の活用について考察します。なお、本稿の意見に関する部分は、執筆者の私見であることを申し添えておきます。
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本稿は、旬刊経理情報2004.10.1(No.1662)号(中央経済社)に掲載された特集記事を加筆修正したものです。
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I.経営管理指標はどのように使われてきたか
1.経営管理指標の概要
一般的に経営管理指標と呼ばれるものには数多くの種類があり、その指標の特徴・性質や算出目的も様々です。以下では、まず、代表的な指標を挙げ、それらの算出方法を示すことにより、経営管理指標の概要を把握することとします(図表1)。
図表1 代表指標とその算出方法
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利払前利益−資本コスト額
なお、利払前利益の簡便な算出方法には、以下の代表的な算式を含め、各種の考え方がある。
・営業利益×(1−税率) ・純利益+支払利息×(1−税率)
資本コスト額は、 投下資本×資本コスト
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NOPAT(Net Operating Profit After Tax)
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営業利益は、会計上のものとは異なり、EVAの資産計上および損益認識の考え方に基づき修正を加えたもの
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EVA(Economic Value Added):経済的付加価値
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NOPAT−資本コスト額もしくは投下資本額×(ROIC−資本コスト)
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FCF(Free Cash Flow):フリーキャッシュフロー
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簡便な算出方法としては、営業利益×(1−税率)−純投資額−運転資本増加額
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EPS (Earning Per Share):一株当たり利益
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ROE (Return on Equity): 株主資本利益率
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ROA (Return on Asset): 総資本利益率
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ROIC (Return on Invested Capital):投下資本利益率
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利払前利益/投下資本
なお、利払前利益は上記「残余利益」の「算出方法」部分を参照
※一般的に、ROIC>資本コストであれば可、と考えられる
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ROC(Return on Capital)・ROI(Return on Investment) 等の名称で呼ばれることもある。事業そのものの収益性を測定するために、事業に直接は関連しない資本・利益(e.g.現預金・遊休資産およびそれから発生する損益)を除外して算出することも多い。 また、財務会計ベースのROICの他に、EVAベースのROIC(資産および損益の計上についてEVAの考え方に基づき算出するもの)もある。
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NPV(Net Present Value):正味現在価値
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CF0
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初期投資額
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存続年数
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CFt
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t期後の税引き後将来キャッシュフロー
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R
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割引率
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IRR(Internal Rate of Return):内部収益率
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※一般的に、IRR>資本コストであれば可、と考えられる
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BSC (Balanced Score Card): バランススコアカード
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財務上の指標に加えて、財務以外の指標も用いて、経営全般の評価を行うもの。従って、財務上の数値は特定の指標に限定されているわけではなく、自社の内部管理上で最も適切と考えられるもの(ROA・EVA等)を上述のような指標の中から選択して使用する。
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* EVAは米国のスターンスチュワート社の登録商標です
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2.経営管理指標の歴史的変遷
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現在、多くの企業が中期経営計画等において、具体的な経営管理指標の目標値を定めています。具体的にはROA、ROE、EVA等が主に採用されているようですが、これまでどのような経営管理指標が企業において重要視されてきたのか、まずその変遷について簡単に触れてみたいと思います。
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(1)
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売上高・マーケットシェア
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従来は、売上高やマーケットシェアといった量を中心とする経営管理指標が重要視されていました。これは、多くの企業が成長期(企業の草創期)にあり、規模の拡大を志向していたことがその理由として挙げられます。ただし、規模の拡大を過度に推進することにより、コストを度外視した経営がなされ、収益力の低下を招く結果ともなりました。
売上高やマーケットシェアに関しては、現在でも企業にとって重要な指標ではあるものの、これらだけを経営管理指標として採用している企業は少数です。
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(2)
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経常利益、営業利益
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次いで、コストを考慮した「利益」を重視する経営管理指標が浸透していきました。売上高に対してどの程度の利益(売上高利益率)を上げられたのか、あるいは1株あたりの利益(EPS)はどの程度か、といったバリエーションも経営管理指標として多く採用されました。これらは現在でも、企業の収益力を分析する指標としては有用なものが多いといえます。
しかし、「利益」も売上高等と同様に規模の拡大を志向している点は否めず、企業として効率的な経営を行っているかどうか、という問いに応える指標としては満足のいくものではありませんでした。
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(3)
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ROA、ROE
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規模の拡大を重視してきたこれまでの反省を踏まえて、資本効率をより重視したROAやROEが経営管理指標として導入されました。企業の資産や自己資本を活用して、どの程度のリターンを確保できているのか、といった観点が効率経営を求める外部投資家に好感され、多くの企業で採用されるに至りました。現在でも多くの企業でROAやROEが経営管理指標として中期経営計画等において策定されています。
ただし、ROAやROEについても意図せざる結果が生じる場合があります。例えば、リストラの過程において資本を縮小させることによりROEが改善することや、流動性確保のための手元資金の増加がROAの低下を招いたりすることが考えられます。
また、ROAやROEは会計上の利益をベースにしており、会計基準の変更や負債/資本比率の調整等により、経営者の恣意的なコントロールが可能な点は否めません。また、企業に本来求められるリターンの水準は、何に比べて適正と判断すべきかという点についても応えることができません。そのため、経営者の恣意性を極力排除したキャッシュフローと、債権者や株主等の投資家が企業に対して要求する期待収益率である資本コストが脚光を浴びることとなりました。
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(4)
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EVA、ROIC
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※ EVAは米国のスターンスチュワート社の登録商標です
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現在ではキャッシュフローや資本コストを包含した新しい経営管理指標としてEVAやROICが企業に普及しつつあります。EVAに関しては、米国で90年代にコカ・コーラ社やAT&T社等の大企業が相次いで導入し、欧州に普及(独シーメンス等)、最近はわが国においても大企業を中心に採用する会社が増えてきています。
EVAの採用企業が増えている理由としては、従来の経営管理指標が負債コストのみを控除した利益をリターンとしているのに対して、EVAは負債コストのみならず自己資本のコストも考慮した企業としての残余収益を示しており、企業価値の最大化、ひいては株主価値の極大化という現代的な要請に応えることができる点が大きいといえます。
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<参考> 「財務体質の改善と競争力向上に取り組む企業行動」〔平成13年度企業行動に関するアンケート調査〕(平成14年4月、内閣府経済社会総合研究所景気統計部)によると、財務面における経営目標として、これまで重視してきたものと今後重視していくものについて以下のような特徴があることがわかりました。
これまでは、「売上高や利益の絶対額を重視」とする企業の割合が全体の70%強で、「資本利益率や資本効率性を重視」とする企業(7%弱)を大きく上回っています。
一方、今後については、「売上高や利益の絶対額を重視」とする企業が30%弱まで減少し、「資本利益率や資本効率性を重視」とする企業が40%弱まで大きく増加しています。すなわち、今後は規模の拡大以上に、利益率や効率性を重視した経営管理方針に転換していこうという企業の姿勢が見てとれる結果となっています。
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3.経営管理指標の活用事例
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ここでは、わが国の代表的な企業がどのような経営管理指標をどのように活用しているか、について述べることとします。
まず、売上高や利益等の量に関する指標ですが、現在でも多くの企業において中期経営計画等の目標値として設定されています。これは、企業としてある程度の規模を維持あるいは拡大していくことで、市場からの認知度をより向上させる狙い等も考えられますが、より本質的には、他の経営管理指標(ROA、ROE、EVA等)の重要なパーツとして、絶対額としての目標値として併用されていると考えるべきでしょう。
次いで、ROAあるいはROEに関しては、わが国では非常に多くの企業において経営管理指標として定着しています。
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有利子負債の削減(手元資金/グループ資金〔CMS等〕活用、棚卸資産圧縮、売掛債権流動化、遊休資産売却、等)
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コストの削減(サイト短縮、物流費効率化、製造拠点の海外展開、分社による人件費圧縮、年金制度変更、等)
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一方、ROEを経営管理指標として採用している会社においては、ROE向上のために以下のような施策を打ち出しています。
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自己株式の買入消却(余剰資金があり自社株が割安であった場合等)
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コストの削減(ROAと同様)
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EVAおよびROICについては最近導入企業が増えてきています。ここでは、具体的な企業における事例を紹介することとします。まずEVAを導入している代表的な企業として、花王と日立製作所を取り上げ、次いでROICを導入している代表的な企業として日産自動車を取り上げます。
花王は1999年4月から国内企業としては初めてEVAを全面導入しました。EVAを選んだ背景としては、国内市場の成熟化が進み、成長の基盤を海外市場に求めるうえで、利益水準の高い海外の同業他社と互角に戦うだけの競争力を身につける必要があったことが挙げられます。
当初は不採算事業の見直しや撤退等の重要な意思決定の尺度として活用していたものの、同社流の改良を重ね、2000年には事業本部別にEVAを算出し、効率性の追及を行っています。その後、EVAを成果主義人事制度にも援用、賞与を固定部分と変動部分に分け、変動部分は同社グループ全体か現地法人が、EVAの目標値をどれだけ達成したかに応じて支給する仕組を導入しました。同社はEVAそのものの公表は行っていませんが、経営の基本方針として「EVAの長期継続的な増加」を目標として明記しています。
日立製作所は2002年に、同社版EVAである独自の付加価値指標であるFIVを導入しました。総合電機として非常に多くの事業展開を行っている同社においては、「選択と集中」の観点から事業の見直しを行うことが喫緊の課題であり、見直しの基準としてFIVを活用することとしました。
具体的には、資本コストを上回る収益を上げているかどうかを示すFIVを基準に、収益性の低い事業は撤退、売却します。FIVが2年連続で赤字の企業は「要注意事業」に分類し、さらに2年以内の黒字化が不可能と判断した場合は撤退、売却の準備に入ります。また、完全な撤退、売却だけでなく、他社との事業統合や全額出資子会社の株式公開で連結対象から外すケースも想定しています。
なお、同社においては中期経営計画において、FIVだけではなく、売上高、営業利益率、ROE等も目標値として併用されています。
日産自動車は2002年にROICを導入しました。同社のROICは分母を独自に考案(自動車事業の固定資産、運転資金、現預金の合計値)する等、一般的に使用されているROICとは若干異なりますが、経営効率化のための指標としては有効なものとされています。ROIC導入の目的は、設備投資や開発案件の投資回収率の引き上げや資産の圧縮が挙げられます。
ROIC向上のためには、代金の回収期間の短縮や余剰在庫の削減等、財務部だけではなく関連部署との連携が重要であり、サービスの向上や生産の合理化、在庫管理の徹底等、全社的な様々な取組が必要であるという意識が浸透しています。
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II.内部管理に有効な経営管理指標の使い方とその効果
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経営管理指標を有効に活用するためには、それらの特徴を理解した上で、構成要素にまでブレイクダウンした指標の管理を行うことが重要です。ここでは、主に内部管理の観点から経営管理指標の活用について説明します。
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1.経営管理指標の特徴
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以下では、各種経営管理指標について、それぞれの指標の持つ特徴・性質等を、幾つかの基準に基づき分類・整理を行っています。なお、取り上げる経営管理指標としては、経営管理指標の中でも最も一般的に用いられているROE・ROA・ROIC・EPS・キャッシュフロー・EVAを中心とし、必要に応じて適宜他の指標とも対比しています。
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(1)安全性vs.収益性
図表2 安全性と収益性でみた経営管理指標の分類
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一般的に経営管理指標と呼ばれているものには、大きく安全性と収益性に分けてどちらかに分類されることが多いといえます。
上表に挙げた指標の中では、自己資本比率や負債比率等の財務レバレッジに関する指標が安全性に関する指標に挙げられます。一方で、それ以外のROE・ROA等の大部分の指標は収益性に関する指標です。ただし、キャッシュフローや絶対額で表される各種の利益額(営業損益・経常損益・税引前利益・税引後利益)は、安全性を示すとともに収益性を表す指標でもあります。
債権者・株式投資家はともに、安全性・収益性の指標の両方に注目します。ただし、相対的に言えば、安全性は主に債権者が重要視する観点であり、収益性は主に株式投資家が重要視する観点です。他の条件が同じである限り、債権者は、財務レバレッジが低く(負債比率が低く)返済の可能性が高いことを好む一方で、収益性については債務者が元本と利息以上の営業利益を企業があげている限りにおいては、それ以上の収益性にはあまり関心はありません。一方、株式投資家は、負債返済後の利益は全てリターンとなることから、収益性をより重視します。
なお、安全性と収益性とは部分的に相反する関係にあります。例として自己資本比率とROEを挙げると、収益性の代表的な指標であるROEを向上させるには、(有利子負債の追加と自己株式の買入消却とを行うこと等により)D/Eレシオ(有利子負債自己資本比率)を上昇させる方法がありますが、これは同時に安全性を低下させることにもなります。
(2)主に経理財務部門がコントロールvs.主に事業部門がコントロール
図表3 コントロール主体別にみた分類
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次に、主に経理財務部門がコントロールする指標と主に事業部門がコントロールする指標に分ける考え方があります。
経理財務部門は、資本調達にあたり有利子負債と自己資本とをいかなる配分で調達するかについての計画・意思決定に関与します。したがって、資本構成と関連する度合いが強い指標ほど、主に経理財務部門がコントロールする指標となります。
具体的には、以下のように経理財務部門の関与度合いを分けて考えることができます。
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資本構成そのもの: 自己資本比率・有利子負債比率・D/Eレシオ
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資本構成によって直接影響があるもの=ROE・ROA・EPS
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資本構成により資本コストが変わることから、間接的・限定的に影響があるもの =EVA・ROIC・NPV・IRR (注: ROIC・IRRそのものは資本構成により直接の影響を受けませんが、その評価にあたり一般的に資本コストとの大小を比較されることから間接的な影響を受けるものと考えることができます)
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資本構成に全く影響を受けないもの=フリーキャッシュフロー
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なお、BSCについては、財務関連指標の選択によっては影響度が変わりますが、財務関連以外の指標も含まれるため、ここでは最も事業部門的な観点が強い指標と位置付けています。
(3)財務諸表ベースvs.キャッシュフロー/時価ベース
図表4 財務諸表ベースおよびキャッシュフロー/時価ベースによる分類
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次いで、収益の捉え方について、以下のように、財務諸表(会計)の利益をベースにする指標とキャッシュフローをベースにする指標に分けることができます(図表4)。ただし、EVAのように、基本的には財務会計と同様に資産計上・減価償却の考え方をベースとしながらも、多くの事項についてキャッシュフローに近似させるための調整を行うものもあります。
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EPS・ROE・ROA・ROIC=純粋に財務会計上の利益を使用
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EVA・ROIC(EVAベース) =資産計上・利益計上の対象となる一部のものにつきCFベースの考え方等により調整
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CF・NPV・IRR=資産計上の概念がなく完全にキャッシュフローベース
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会計ベースの利益は恣意性が入る可能性がありますが、逆にキャッシュフローにはその可能性がありません。したがって、客観的なものさしとしてはキャッシュフローベースの指標の方が好ましいといえます。なお、EVAについては、キャッシュフローに近似させる各種の調整に加え、会計処理上の保守主義を補正する(会計上は費用計上される研究開発費を資産計上する等)ことも行っています。
なお、ROE・ROA(利益に経常利益・純利益等を用いる場合)とROICとを比較すれば、前者は資本構成により影響を受ける指標であり、後者は影響を受けない指標である、という相違点があります。財務上の事項である資本構成に影響を受けずに事業そのものの収益性を測定するという観点からは、ROICの利用が好ましいといえます。
また、利益に関する相違の他に、ROE・ROA・ROICは算出時の分母に使用される資本額も異なります。対象となる資本は図表5のとおりであり、ROICは資本額についても、買入債務を差引くことにより、当該事業に必要なネットの資本額を使用することが注目されます。
図表5 対象資本別にみた分類
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上記ではキャッシュフローをベースとする指標の長所について触れましたが、一方で会計をベースとする指標の長所も考えられます。例えば、経営方針等についてIR等の観点から外部とのコミュニケーションを図りたい、もしくは株主等の投資家に対して自社の将来像として明確で事後に検証可能な数値に基づきコミットメントを提示したい、といった目的のためには、会計ベースでの指標(ROA・ROE等)が好ましいことも考えられます。なぜならば、会計ベースではない指標については、内部管理上の数値等が算出にあたって必要なことが多く、外部からは容易に把握・確認することが困難であるからです。外部とのコミュニケーションとしては、依然として財務諸表をベースにした数値の方が優れていることも多いといえます。
ただし、このことは将来的にも不変であるとは限らず、時の経過とともに変化する可能性もあります。例えば、EVAについていえば、従来は基本的に内部管理のための指標でしたが、最近では投資家への開示により外部とのコミュニケーションに用いる企業も増えてきています。さらには、証券会社等のアナリストにおいても、各社のEVAを推計し企業評価に利用しようとする動きも見えてきています。したがって、会計ベースでない指標も、今後はコミュニケーションとしての共通言語としての地位が確立されることも考えられます。
一方で、財務会計自体がキャッシュフロー/時価の観点を導入する動きもあります。金融商品会計・退職給付会計・減損会計は、それぞれに何らかの形で時価の概念が導入されています。また、これに加えて、例えば退職給付債務については、格付機関等においては本来の時価に近いベースで財務諸表を調整し評価を行っていることも注目に値します。
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(4)資本コスト概念なしvs.資本コスト概念あり
図表6 資本コスト概念の有無による分類
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日本においても、ここ数年間で資本コストの概念の導入が着実に進展してきています。自己資本(株主資本)は借入(負債資本)以上に高コストの資本調達手段であることから、そのコストを勘案しなければ適切な評価・管理は行えません。
したがって、NPV・IRR・EVA・ROIC等の資本コストの概念のある指標を使用する傾向は今後とも継続することが想定されます(図表6参照)。
(注 IRR・ROICそのものは資本コストと直接の関連はありませんが、その評価にあたり一般的に資本コストとの大小を比較されることから間接的に資本コストの概念を導入しているものと考えることができます)
(5)(事後)業績評価vs.(事前)価値評価
図表7 評価の業績評価・価値評価別にみた分類
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ここで取り上げている経営管理指標の多くは、実績としての業績を事後的に測定・評価する機能を持ちます。一方で、NPV・IRR等は、投資を行うにあたって(事前に)意思決定を行うための手法です。
なお、EVAについては、基本的には事後的な業績評価のための指標ですが、将来の年ごとのEVAを現在価値に割引き合計することで(NPVと同様の)価値評価を行うことができることから、中間的な特徴を持つものと位置付けています(図表7参照)。
(6)比率vs.絶対値
図表8 比率、絶対値による分類
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図表8に記載の指標について、比率と絶対値のペアを作れば以下のとおりとなります。
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EPS・ROE・ROA ⇔ 税引後利益 |
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ROIC(会計ベース) ⇔ 残余利益 |
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ROIC(EVAベース) ⇔ EVA |
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IRR ⇔ NPV |
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比率で表される指標は、当該企業と他社、企業内での当該事業と他事業、を比較する際には一般的には好ましい指標となります。
特に収益性に関する指標については、異なる企業・事業間で「効率性の比較」を行うことができます。企業規模や事業規模が異なる場合には、絶対値での比較は意味がないことが多いのに対し、比率での比較は有用であることが多いといえます。例えば、企業規模が大きく異なる二つの企業を比較する場合、2社の税引後利益を比較してもあまり意味はありません。しかし、EPSやROEを用いることにより他社比較が可能となります。
ただし、特に収益性に関する指標については、比率表示の指標だけを使用して管理・評価する場合には、特に投資意思決定に際して縮小均衡に陥るバイアスがかかり易いという危険性があることが考えられます。
例えば、ROICを唯一の指標として掲げた場合、その短期的な向上を最優先とするための最も確実な達成方法は、新規の投資を一切中止し、収益をあげている既存の事業に集中することでしょう。極端なケースかもしれませんが、以下のケースを考えてみます。
ある会社は自社の資本コストは5%であり、従ってROICは5%以上あれば投資家の要求にこたえうるものと考えています。ここで、既存の事業のROICは8%であり、現状計画中の同規模の投資のROIC見込みは6%であると想定します。従って、新規投資を行った場合の合計のROICは7%となります。一般的に考えれば当該新規投資のROIC6%はハードルレート5%を上回ることから、当該投資は実行すべきですが、ROICの率のみを指標として管理・評価する場合には、現状の8%が7%に低下することから投資を実行しないこととなります。 |
2.内部管理における経営管理指標の活用
前述の「1.経営管理指標の概要」においては代表的な経営管理指標について概観しましたが、ここでは特に企業の内部管理に経営管理指標を適用することに関し、「指標選択の考え方」および「指標活用における留意点」を述べることとします。
(1)内部管理に用いる経営管理指標
経営管理指標には、外部評価に適したものと、内部管理に適したものがあります。ここでは、「II.1.経営管理指標の概要」で行った特徴・性質による分類を参考にしつつ、外部評価vs.内部管理という比較を行います。
図表9 外部評価、内部評価による分類 |
外部評価は一般的に会計ベースの指標で行われることが多いといえます。一般的には、外部評価は基本的には公開資料(数値的には財務諸表の数値)に依存し、企業内部の詳細な数値は利用できません。また、コミュニケーションのために共通言語でなくてはならないという観点もあります(投資家は専門家ばかりではないので、難解なファイナンス理論ではコミュニケーションが成立し難い一方で、会計なら世間一般の理解度が比較的高い)。
一方、内部管理については、そもそも会計等の特定のルールに縛られる必要はありません。従って、一般的に言えば、ファイナンス理論(キャッシュフロ−/時価および資本コスト)に基づく企業価値向上の観点が優先されるべきといえます。ただし、IR等において会計上の指標を経営目標として設定・公表するケースも多く(上記外部評価の観点から会計ベースの方が投資家等の外部第三者とのコミュニケーションが容易)、それらと内部管理との整合性を優先するのであれば、内部管理にも当該会計ベースの指標を使用することも考えられます。
(2)前述の(5)「業績評価 vs. 価値評価」および(6)「比率 vs. 絶対額」の観点
内部管理に使用する指標を考えるにあたっては、業績評価(上からの経営の観点)と同時に投資意思決定に使用できる(下からの事業・プロジェクトの責任者の観点)ことが必要と考えられます。また同時に、投資意思決定にあたり野放図な投資が行われたり縮小均衡に陥ったりしないような指標であることが必要です。
(3)事業部門別のブレイクダウンvs.機能別のブレイクダウン
内部管理に用いる際には、機能別および事業部門別のそれぞれの軸別にブレイクダウンして利用できることが必要です(図表10参照)。
図表10 |
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事業部門別ブレイクダウン |
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内部管理にあたっては、事業部門別に分けて把握・管理できることが必要となります。したがって、指標を算出するための各構成要素について事業部門別に合理的にかつ比較的容易に数値を取得できるかという観点が必要となります。この観点では、EVA・ROICが優れており、次いでROA等の利用が考えられます。 |
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(注)一般的な企業においては、各事業部門には財務機能はないものの、カンパニー制を採用しているような企業においては各カンパニー内に財務機能を有しているケースがありえます。 |
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機能別ブレイクダウン |
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機能別に分ける際には、大きくは財務部門と事業部門とに分けて考えることが必要です。さらに、事業部門については、製造・販売・購買等にブレイクダウンして考えることができることが好ましいものと考えられます。 |
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これらの、事業部門別ブレイクダウンおよび機能別ブレイクダウンに関する留意点等については、次項にて説明を行います。 |
3.内部管理における経営管理指標のブレイクダウン
(1)事業部門別のブレイクダウン
バランスシート項目の事業部門別配分
事業部門別の指標を算出する際には、指標を構成する各要素を各事業部門に配分することが必要となります。ここでは、特にバランスシート項目について留意点を記載します。
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a. |
資本構成(自己資本/有利子負債)に関する留意点 |
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そもそも、前述の通り、ROE・EPSについては、資本構成により、分子(利益額)および分母(資本金額・株式数)ともに影響を受けます。また、ROAについては、資本構成により、分母(資本金額額)は影響を受けないものの、利益に利払後の数値(経常利益や純利益)を使用する場合には分子にも影響を受けます(言い換えれば、これらの指標においては、1つの指標に事業部門のパフォーマンスと財務部門のパフォーマンスとが混在して算出されていることになります)。
ここで、事業部門別に経営管理指標を活用することを考えた場合、自己資本・有利子負債を事業部門に対し合理的、客観的に配分をすることは困難であることから、この問題は更に深刻になります。従って、事業部門別の管理・評価のための指標としては、ことさらROICやEVAが好ましいものと考えることができます。
上記のような問題点があるものの、それでもROE等を内部管理に使用するという場合、自己資本および有利子負債の配分にあたっては、以下のような事項に留意する必要があります。
自己資本および有利子負債は、一体として投下資本を構成していることから、個々の自己資本・有利子負債を事業部門(もしくはその中の個別資産)に直接的に紐付けることは困難であると考えられます。たとえ特定の事業部門の個別投資案件にあたり、投資金額と同額を新規調達したとしても、その調達資本への利払・配当は企業内の全部門からの収益で賄われるため、理論的には偶々新規投資と同時期に同金額を資本調達したに過ぎません。これは、特に新規投資にあたり新規調達を行わず余剰資金から賄ったり、一部事業を売却した資金を使って他事業に新規投資を行ったような場合を想定すれば、直接の紐付けが無意味であることが理解しやすくなります。
従って、自己資本・有利子負債を各事業部門へ配分するには、何らかのルールに基づき見做しの金額を配分することになります。その方法には、事業部門ごとの固定資産残高による比例配分や、資産種別ごとの残高にそのリスクを勘案した掛け目を乗じて所要自己資本を算出するリスクキャピタルといった方法があります。しかし、いずれにしても客観性・合理性の確保は難しく、労力の割にメリットは少ないことが多いものと想定されます。 |
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b. |
買入債務の配分に関する留意点 |
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ROAの分子(利益)に利払前利益(例えば営業利益)を用いる場合には、上記の問題はありません。ただし、事業に付随して発生している買入債務が考慮されていないことが問題となります。事業部門を管理・評価する指標に買入債務が考慮されていなければ、買入債務のサイト長期化による運転資本削減の努力をしたとしても評価されないことが問題となるでしょう。
ただし、買入債務の金額がそもそも少額であり考慮しなかったとしても影響が小さいようなケースや、多数の事業部門で共通の原材料を使用しており原材料部・資材部等の部署において一括購入し支払条件も同部で交渉・設定しているようなケースにおいては、上記問題は少なく、ROICの代替としてROAも有効であると考えられます。 |
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c. |
事業部門別資本コストの算出に関する留意点 |
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EVAおよびROICについては、その算出・利用にあたり資本コストが必要となります。事業部門間でリスクに大きな相違がない場合には全社で同一の(企業全体の)資本コストを適用することが可能ですが、そのリスクが大きく異なる場合には、事業部門別に資本コストを算出する必要が生じます。
なお、部門別の資本コストを算出するには、以下の2通りの方法が考えられます。
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まず株主資本(自己資本)コストと負債資本(借入)コストを、それぞれ同業他社の株主資本コスト・負債資本コストを参考に算出する。その後、事業部門ごとの資本構成に基づきその加重平均を産出する。 |
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同業他社の資本コスト(WACC)を参考にして直接資本コスト(WACC)を算出する。 |
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資本構成による資本コストへの影響は、異なる事業間のリスクの差異による影響と比較した場合、一般的にはそれほど大きくありません。したがって、事業部門別の資本コスト算出にあたっては、費用対効果の観点からは、資本構成の影響を厳密に考える必要はなく、後者の方法を採用することで十分なケースが多いものと考えられます。なお、前者の方法に拠った場合、上記a.と同様の問題が生じることにも留意が必要です。
(補足 「資本構成と資本コストに関する誤解」参照) |
(2)機能別のブレイクダウン
これまで述べてきたように多くの企業において中期経営計画等でROAやROE等の経営管理指標の目標値が設定されています。
しかしながら、経営管理指標は多くの構成要素に分解することが可能であり、構成要素単位での具体的な目標値や経営施策を策定することなしに、経営管理指標を設定することは単なる努力目標としての位置付けにとどまる可能性があります。つまり、策定された経営管理指標の目標値を達成するためには、より実務的かつ実践的なレベルでの対応策の落とし込みが必要となるのです。
ここではROEとEVAを例にとり、それぞれを構成要素に分解し、構成要素ごとに主に企業のどのような機能によるコントロールが可能なのか、また経理財務部門は各構成要素にどのような関与をするべきか、等について考察することとします。
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1. |
ROEの構成要素(指標) |
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ROEの構成要素は図表11のとおりですが、この図はデュポン・システムを一部改訂したものです。デュポン・システムとは、米大手化学メーカーのデュポン社が開発した事業部管理手法であり、経営管理指標を各現場のオペレーションに直結した指標にまで下ろしている点に特色があります。デュポン・システムそのものは伝統的な管理手法ではあるものの、現在でもその有用性は失われていません。 |
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図表11 デュポン・システムを一部改訂したROEの構成要素
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ROEの構成要素は、主に経理財務部門がコントロール可能な指標と、主に事業部門がコントロール可能な指標とに大きく分けることができます(どのような指標であれ、複数の部門が関与している点は否めませんが、ここでは実務的な観点から関与レベルの強弱により分別しています)。
まず、主に経理財務部門がコントロール可能な指標としては、財務レバレッジおよびインタレストカバレッジが挙げられます。
財務レバレッジとは、株主資本に対する総資本の倍率を指します。理論的には負債比率を高めることにより、財務レバレッジ効果からROEは向上するものと考えられます。ただし、極端な負債の増加に対しては、支払利息が増加するだけでなく、赤字転落や債務不履行に陥る可能性もあります。したがって、企業の経理財務部門は、負債の利用によって生じる財務レバレッジ効果と財務的破綻リスクが顕在化する場合のコストとのバランスをとった最適資本構成を探ることが必要となります。
次にインタレストカバレッジとは、営業利益を支払利息で除したものであり、借入金を負担する能力を表しています。高収益体質の企業であれば、貸借対照表上は外部負債依存度が高いようにみえても、適正なインタレストカバレッジを示すことがありえます。したがって、企業の経理財務部門は、自社の債務負担能力および返済能力を十分考慮した上でインタレストカバレッジの目標値を設定することが重要です。
一方、総資本営業利益率およびその構成要素に関しては、主に事業部門においてコントロール可能な指標ということができます。具体的な機能別指標としては、主に販売における指標として売上高営業利益率、売上高販売管理費率、売上債権回転率等が、主に製造における指標として売上高製造原価率、運転資産回転率、固定資産回転率等が挙げられます。 |
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2. |
EVAの構成要素(指標) |
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EVAの構成要素は図表12のとおりです(なお、図表12の利益額については本来はNOPATですが、税引前NOPAT等の表現が一般的ではないため、営業利益として表示している点に留意してください)。 |
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図表12 EVAの構成要素
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まず、EVAの構成要素のうち、主に経理財務部門でコントロール可能な指標としては資本コスト(以下、WACC〔加重平均資本コスト〕)が挙げられます。理論的にはWACCを引き下げることによりEVAを向上させることが可能になります。
それでは具体的にWACCを引き下げる方法はあるのでしょうか。詳細については、補足「資本構成と資本コストに関する誤解」を参照していただくとして、節税効果と倒産リスクを考慮した最適資本構成の追求によりWACCの引下げが可能となるといえます。
次いで、投下資本営業利益率およびその構成要素に関しては、主に事業部門においてコントロール可能な指標ということができます。具体的な機能別指標としては、主に販売における指標として、売上高販売管理費率、売上債権回転率等が、製造における指標として、売上高製造原価率、固定資産回転率、在庫回転率等が、購買においては買入債務回転率等が挙げられます。 |
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3. |
各部門の役割 |
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ROEやEVA以外の経営管理指標についても、構成要素に分解することは可能です。したがって、経営管理指標を目標値として設定する場合には、経理財務部門のみならず事業部門に対しても上記のような構成要素にブレイクダウンした指標レベルでの目標値を積上げていくことが不可欠であると考えられます。
その一方で、経理財務部門は主に事業部門によってコントロール可能な指標をモニタリングし、各事業部門にモニタリング結果をフィードバックするといったサポート機能を果たすことも重要な責務であるといえます。 |
4.財務施策と経営管理指標への影響
前述しました「財務体質の改善と競争力向上に取り組む企業行動」〔平成13年度企業行動に関するアンケート調査〕(平成14年4月、内閣府経済社会総合研究所景気統計部)によると、企業は財務体質改善のために図表13のような施策に取り組んでいます。ここでは、主な財務施策が経営管理指標にどのような影響を与える可能性があるのか、またその留意点は何か、について述べることとします。
図表13 財務体質改善への取組み状況 |
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(1) |
グループ経営の導入・強化 |
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連結ベースでの経営管理が求められている中、グループ経営を強化する動きが加速しています。例えば、グループ内資金管理の効率化のためにCMS(Cash Management System)を導入する企業が増えています。CMSの導入効果としては、プーリングによる有利子負債圧縮やネッティングによるコスト削減等が挙げられます。したがって、負債比率の低下や利益率の上昇等の影響が考えられます。 |
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(2) |
不採算・低収益事業の縮小・整理 |
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採算性の低い事業からの撤退により、企業は収益性が改善し、稼働率の低い資産を売却すること等により総資産を圧縮することが可能になります。したがって、ROA等の改善のための施策としては有効です。ただし、撤退にかかるコストが巨額であるような場合には、一時的にROA等が大きく悪化するようなことも考えられるため、段階的撤退等の対応をとる必要があります。 |
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(3) |
有利子負債の圧縮 |
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有利子負債の圧縮は、手元流動性や保有資産の売却による返済であれば総資産の圧縮が図れ、金融費用の削減、ひいてはインタレストカバレッジの改善にもつながります。
ただし、これまで、わが国においては「無借金経営」であることが優良企業であるとされていましたが、現在では必ずしもそうとはいえなくなってきていることに留意する必要があります。投資家は企業に対して、節税効果のある(株主資本コストよりは安いコストの)負債を活用した、より高いリターンを生む事業への投資を求めており、負債比率の極端に低い安定企業に対しては負債の増加を要求する可能性があります。したがって、最適資本構成を意識した有利子負債の圧縮という観点が重要です。 |
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(4) |
過剰在庫の圧縮 |
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過剰在庫の圧縮は、在庫費用の削減、総資産の圧縮等に効果があり、在庫回転率も上昇するため営業利益率の向上にも寄与します。在庫調整は、主に製造部門における施策ですが、適正在庫水準に関するモニタリングおよびフィードバックを経理財務部門が常に行っていることが望ましいと考えます。 |
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(5) |
売掛債権の圧縮 |
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売掛債権を圧縮するためには、流動化・証券化が主な手段となります。一般的に売掛債権の圧縮は資金調達としての意味合いが強いが、一方でサイトにかかる資金負担コストが減少し、金融収支の改善効果もあります。また、売掛債権の流動化・証券化によって調達された資金で有利子負債の圧縮を図る企業も多くあります。 |
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(6) |
株式等、保有有価証券の売却 |
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持合株式の解消や資金調達の手段として、保有有価証券の売却は行われています。原則として、投資家は企業が事業からリターンをあげることを求めており、他の企業の株式を保有することには概ね否定的であると考えられます。
売掛債権の圧縮と同様に、株式等の売却で得た資金で有利子負債の削減、総資産の圧縮を行っているケースもあります。 |
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(7) |
新規設備投資の抑制 |
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新規設備投資は純利益(+減価償却費)の範囲内としている企業が見受けられます。新規設備投資を抑制することにより、手元流動性の確保、有利子負債の削減、コストの削減を図ることができます。ただし、新規設備投資の抑制は、あらたな収益獲得機会を喪失する可能性もあり、縮小均衡に陥ってしまうリスクがあることは十分理解しておくべきです。 |
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(8) |
自社株取得 |
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欧米では自社株取得はストックオプションの権利行使に備えて実施されるケースや株式の過小評価に対する対応といった理由に加えて、最適資本構成の調整目的で実施されることが多くあります。
一方、わが国ではROE最大化、いわゆる会計上の経営管理指標の改善手段としての部分に強い関心が持たれています。ただし、経営管理指標の改善がそのまま企業価値の向上に結び付くとは限りません。これまで述べてきた通り、どのような目的でどのような施策を実施したかという中身が問われるのです。わが国では会計上の経営管理指標の数値が重要だと思われていることを如実に示している一例といえます。 |
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(9) |
M&Aや持株会社化を通じた事業再編 |
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事業再編による効果としては、「選択と集中」による効率性の向上が挙げられます。具体的には不採算事業からの撤退による人件費等のコストの削減、好調な事業への資源集中によるリターンの向上等が考えられます。 |
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(10) |
退職金・企業年金制度の変更 |
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退職給付会計の導入により、企業は年金の積み立て不足によるリスクをあらたに認識するに至りました。積み立て不足債務は、企業が掛け金として基金に拠出していかなければいけない額であり、通常債務の返済原資となる手元流動性あるいはキャッシュフローに影響を与えるからです。また、受給者の増大による資金負担の急激な増加も、いわゆる2007年問題として間近に迫っています。
そのため、企業は退職給付制度の見直しを図り(401kの導入等)、負担を軽減させる対応を行ってきています。これらの変更によりコストの削減効果が見込めます。
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III.最後に
経営管理指標は、「経営を有効に機能させるための施策が集約された企業の意思決定の結果」ということができます。これまで述べてきた通り、内部管理における経営管理指標の活用は、企業価値の極大化するための重要な手段であるといえるのではないでしょうか。
あずさ監査法人FMG事業部
シニアマネジャー/Global CFO(CCM) 岡本 浩一
シニアマネジャー/米国公認会計士 河南 憲治
〔参考文献〕
・ 「ゼミナール経営財務入門」井手正介、高橋分郎(日本経済新聞社)
・ 「マネジャーのための経営指標ハンドブック」シアラン・ウォルシュ(ピアソン・エデュェーション)
・ 「EVA創造の経営」G.ベネット・スチュワート, III(東洋経済新報社)
・ 「コーポレートファイナンス 戦略と応用」A・ダモダラン(東洋経済社)
・ 「最強CFO列伝」井手正介(日経BP社)
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補足 「資本構成と資本コストに関する誤解」
本文中において、資本構成および資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital、以下「資本コスト」)に関し、何度か触れています。ここでは、その参考として、資本構成および資本コストに関して、一般に見られがちな誤解とその説明を試みます。
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| よくある誤解1
1−1
借入(負債資本)に対しては金利というコストを支払わなくてはならないが、自己資本(株主資本)には利払がないことからコストはない。したがって、自己資本をできるだけ厚くし借入を極力削減する(有利子負債自己資本比率:D/Eレシオを低くする)ことにより、資本コストを低下させ、企業価値を向上させることができる。
1−2
自己資本にかかるコスト(株主資本コスト)は借入にかかるコスト(負債資本コスト)よりも常に高コストである。したがって、自己資本を減らし借入を増やせば(有利子負債自己資本比率:D/Eレシオを低くすれば)増やすほど、資本コストは低下し企業価値は向上する。
よくある誤解2
一般的なファイナンス理論によれば、自己資本にかかるコスト(株主資本コスト)は借入にかかるコスト(負債資本コスト)よりも常に高コストであることから、自己資本比率が高い健全な企業ほど資本コストが高いことになる。したがって、資本コストという考え方は、現実を反映した正しい理論ではなく、誤った概念である。 |
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<解説>
EVA・ROICやNPV・IRRの何れの観点でも、「同一の事業内容であれば、資本コストが低ければ低いほど企業価値は高くなる」という考え方は間違いありません。
ただし、上記のよくある誤解においては、「資本構成を変化させれば資本コストは一方向に変化する」という考え方が間違っています。この誤りは「資本構成に関わらず、株主資本コストおよび負債資本コストのそれぞれは変化しない」という誤解に基づくものです。
実際には、資本構成の変化に伴い株主資本コスト・負債資本コストともに変化することにより、その加重平均値は一方向に変化するわけではありません。具体的には、有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)が上昇するにしたがい、資本コストは一旦は緩やかに低下しますが、一定程度を超えた段階で再び上昇に転じることとなります。
資本構成が資本コストに与える影響をグラフに示したものが図表14です。
(図表14) |
また、図表14のそれぞれについて、資本コストに加えて株主資本コスト・負債資本コストについてもグラフ上に表現したものが、図表15,16,17です。
(図表15)よくある誤解1−1の考え方 |
グラフ上に表現されているように、有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)が上昇するにしたがい、株主資本コストは上昇します。これは、株主にとってのリターンの不確実性が高まりリスクが増大することから、株式投資家が高いリターンを要求することが理由です。
一方、負債資本コストは、D/Eレシオがある程度の範囲内に収まっている限りにおいては殆ど変化はありませんが、それを超えた段階で上昇を始めます。これは、負債のデフォルトリスクが高まることから、債権者が高い金利を要求することが理由です。
両者の加重平均である資本コストは、節税効果により、一旦は緩やかに低下しますが、一定程度を超えた段階で再び上昇に転じることがグラフから読み取れます。この上昇に転じる直前の資本コストが最も低いときの資本構成を一般的に最適資本構成と呼び、また最適資本構成の状態にあるときに企業価値は最大化されると考えられています。
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