企業経営に関するトピック解説

2006.2
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日本における内部統制制度の現状(1)
財務諸表に係る内部統制基準化への動向と文書化について Page3

V.業務プロセスに係る内部統制整備状況の文書化と評価

業務プロセスの有効性の判定は、大きく「内部統制の整備状況の有効性」と 「内部統制の運用状況の有効性」の評価に分けることができます。まず現状の 業務手続の中の内部統制手続を把握し有効性を評価します。有効と判断でき た場合に、その内部統制手続が有効に運用されているかをチェックすることに なります。

「内部統制の整備状況の有効性」の判定は、まず業務プロセスごとの内部統 制の現状把握を行うことから始まります。そのためには対象となる業務プロセ スを選定しなければなりません。企業が公表する財務データは、さまざまな業 務プロセスの結果から生じた経理数値によって作成されています。販売プロセ スから生じた数値が売上や売掛債権の財務数値として財務報告プロセスにお いて集計・連結され外部に報告されます(図表7)。各業務プロセスは、販売プ ロセスを例にとれば、図表7のようにさらに受注から債権回収や値引・返品処 理といったいくつかのサブプロセスによって構成されています。さらにそれぞ れのサブプロセスがいくつかの業務処理に分解されます。図表8には、入金の サブプロセスがさらにいくつかのサブ業務プロセスに分解されていることをイ メージとして示しています。業務プロセスの文書化は、業務の流れの細分化さ れたサブ業務プロセスで行われるため、図表8では入金/記帳業務における 文書化が行われることを示しています。このレベルでフローチャートの作成や 業務の文書化を行い、コントロール・マトリックス表(内容は後述)においてある べき内部統制手続と現状の業務での内部統制手続を比較評価し、ここで内部 統制の整備状況の評価を行います。よく、文書化によって企業に非常に大きな 負荷が生じると言われるのは、こうした作業によって作成される文書量が、連 結ベースで事業拠点、事業単位ごとに実施されるため膨大な量になってしまう からです。図表9のように、事業拠点および事業単位が10拠点の場合で主要な 業務プロセスが11あり、それぞれの業務プロセスが9のサブ業務プロセスがあ り、そのそれぞれに対して文書化を10枚ずつ実施すると、それだけで9,900枚の 文書が必要になります。こうした文書数は、事業拠点や事業単位、主要な業務 プロセスおよびサブ業務プロセスが増加すれば、さらに増えることになります。

図表7■ 業務プロセス統制

図表7■ 業務プロセス統制

図表8■ 業務プロセスの文書化

図表8■ 業務プロセスの文書化

図表9■ 作成する文書量の掛け算イメージ

図表9■ 作成する文書量の掛け算イメージ

文書化のためには当然、サブプロセスごとにどんな内部統制上のリスクがあ るかをあらかじめ検討し、米国のCOSOの内部統制手続の参考例等を用いて、 現状の内部統制の整備状況を把握するために質問事項を作成しておく必要が あります。図表10には、販売プロセスのサブ業務プロセスの「受注」に焦点を 当てた内部統制に関する質問事項の例を示しています。こうした質問事項にも とづいて、現状の業務プロセスにおいてインタビューや自己点検によって内部 統制を洗い出していくのです。こうした質問や自己点検においては、販売プロ セスにおいてどのような不正財務報告のリスクがあるかをあらかじめ考えてお く必要があります。図表11には一般的な販売プロセスに係る不正財務報告の リスクを参考に示しています。

図表10■ 「業務プロセスに係る内部統制」の質問例

「販売プロセス」の「受注」に焦点を絞ると

  • 受注の登録は、すべて正式に承認されたもののみがなされているか
    承認していない受注登録はできないようになっているか
  • 受注したものはすべて受注登録されているか
    入力誤りは防止され、入力漏れは適時に発見できるようになっているか
  • 与信の限度額があらかじめ設定され、限度を超える受注登録は禁止されてい るか
    与信限度額を超過する受注は特別な承認が必要となっているか
  • 受注時の販売単価は、値引き額等の適切な承認手続を経て決定されているか
  • 受注時には、在庫の状況が確認され、出荷遅延等が防止されているか
  • 受注残高は定期的に(あるいは常に)把握され、レビューされているか
    異常な受注や出荷遅延についてはすみやかに理由が調査されているか

図表11■ 不正財務報告リスクの考察の例示

仮にコントロールが脆弱であった場合、どのような不正財務報告が生じ得るかを予想する。

  • 虚偽の売上と顧客
    ・ マスタ登録されている顧客と共謀して架空売上を計上
    ・ マスタ登録されていない顧客に架空売上を計上
    ・ 顧客と共謀して売上を水増し計上し、代金の一部を先方担当者に返還

  • 収益認識の繰上げや遅延
    ・ 出荷前の受注時点で売上を前倒し計上
    ・ 実際には返品されているのに、返品の不計上
    ・ 子会社や問屋に無理矢理製品を押し付けて売上計上
    ・ 実際には在庫を第三者倉庫に移動しただけで売上計上

  • 割戻しの操作
    ・ すでに確定している売上割戻しを計上しない
    ・ 未計上の割戻しを繰り越して翌期の値下げとして処理

  • 信用状況の虚偽開示/不良債権に対する過大・過少引当
    ・ 長期間未入金を、預り保証金の充当等で入金があったように装う


こうした手続を実施した結果例として、図表12および図表13に示したような 受注に関する統制活動およびフローチャートの記述が行われます。統制活動の 状況が把握された後で、内部統制がリスクに対応して十分に機能しているかど うかを図表14にあるコントロール・マトリックス表によって検証します。図表14 に示されたアサーションは、内部統制のチェックポイントともいえるもので、実 在性、網羅性、権利と義務、評価と配分、表示・開示のそれぞれのポイントか ら内部統制の有効性を判定します。ここで注意しなければならないのは、文書 化が終了したら作業が終わりというわけではなく、ある程度文書化された手続 が実際に行われていることを検証する手続が必要とされることです。文書化さ れた手続が実際にはそのとおりに業務に適用されていなかったりすることは 往々にしてあり、ひととおり業務の流れをなぞって確認するような手続が通常は 必要とされます。結果として統制手続が有効かどうかという評価のために、 図表15に示したような内部統制の整備状況の有効性の評価を行います。

図表12■ コントロールの記述の例示

コントロールが識別されて、文書化された状態

  • 電話注文の場合には、販売担当者により必ず受注メモが作成される。受注は、 注文書(Fax)あるいは受注メモにもとづいて、受注当日中に販売管理システムに 入力される
  • 販売管理システムの受注入力は、得意先マスタに登録されている得意先のみ入 力することができる
  • 受注入力後に、販売管理システムより出荷指示書および注文請書が出力され、販 売担当者により、受注メモあるいは注文書と照合される。販売担当者は、一致を 確認後、出荷指示書番号を受注メモあるいは注文書に手書きで転記する
  • すべての注文書あるいは受注メモは、出荷指示書および注文請書とともに、決裁 権限規程にもとづいて販売責任者の承認を受ける。販売責任者は、受注金額と 得意先を確認し、受注手続が規則どおり行われているかを確認する
  • 販売担当者、販売責任者は、販売管理システムにより、受注残データをリアルタイ ムで確認できる。異常な受注残データの有無を、販売管理部が月に1度精査し、 異常受注データ確認書により、販売担当者に照会される


図表13■ 業務フローチャートの例示

図表13■ 業務フローチャートの例示

図表14■ コントロールマトリックスの例示









アサーション

リスクの内容

コントロール

実在性

網羅性

権利と義務

評価と配分

表示

開示

売上

受注

 

   

正規の顧客以外に商品を発送する

与信限度を超過して受注する

架空売上の温床となる

販売管理システムへの受注入力は、得意先マスターに登録されている得 意先からの注文についてのみ入力することができる

売上

受注

     

正規の顧客に対し、正しい品番、数量、 価格で出荷がされない

販売管理システムから出力される注文請書、出荷指示書は、入力担当者 により注文書と照合される

また、すべての注文書と出荷指示書は、販売責任者によって承認を受ける


図表15■ プロセス統制の評価−統制デザインの評価

コントロール(統制)

タイプ

頻度

デザインの
評価

評価内容

出荷係は出荷に先立ち、受注票と出荷伝票の照合を行っ ている

予防的/人的

随時

受注票と出荷伝票の照合がマニュアルでは規程 されているが周知する手続が設計されていない

製品の出荷を受払いシステムに入力することにより、は じめて経理システムで売上入力が可能となる

予防的/システム的

随時

受払いシステムへアクセス制限が十分でない

  1. 請求書は経理システムで売上入力をしたものから自 動作成される
  2. 請求書は発送前に得意先別売上高一覧と照合される

予防的/システム的

随時

予防的/人的

週次

照合した形跡を残す文書がない

期日どおり入金されない売掛金は、未入金明細が作成さ れ、債権回収部門で原因調査が行われる

予防的/人的

月次

未入金明細の作成は手作業であり正確性が確保 されない可能性がある


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