企業経営に関するトピック解説

2005.10
ページ| 1 | 2 | 3 |

デット・デット・スワップ(DDS)

昨今、中小企業の過剰債務の状態を解消する企業再生手法としてデット・デット・スワップ(DDS)が注目されています。本稿では、DDSが普及した背景と現状、金融機関が実施する自己査定上の取扱いならびに会計監査上の取扱い、債務者および債権者から見たDDSとデット・エクイティ・スワップ(DES)の相違点について、解説しています。


I.はじめに

いまだ、バブル崩壊による過大債務や経営環境の変化により苦境に陥っている中小企業が数多く見受けられます。特にここ数年、中小企業を取り巻く経営環境はますます厳しくなり、永年培ってきた実力や信用力、あるいは優れた技術力や取引先を持ちながら、資金繰りに窮して倒産に追いやられるケースがあります。

こうした企業を救い再生させることは、緩やかな景気回復が続くわが国経済にとっても大きな課題であり、現在、公的機関をはじめ、数多くの専門家が企業再生の業務に取り組んでいます。

しかし、現実には、もっとも状況が深刻な中小企業の再生は決してうまく行っているとは言いがたいのではないでしょうか。これは企業の経営状態や経営環境がさまざまであるため、それぞれの企業に合った再生手法が必要であるにもかかわらず、必ずしもそのような対応が採られていないところに大きな問題があります。

企業再生の手法には、(1)借入金について返済スケジュールを見直すリスケジュール (2)債務を株式に交換するデット・エクイティ・スワップ(DES) (3)債権者が債務者に対して有する債権の一部を放棄する債権放棄 (4)営業譲渡・会社分割・M&A (5)地域中小企業再生ファンドの活用などさまざまな手法があります。今回のテーマであるデット・デット・スワップ(DDS)も、過剰債務を抱える中小企業に対する再生手法の1つです。


II.DDSとは

デット・デット・スワップ(Debt Debt Swap, 以下「DDS」という)とは、中小企業の過剰債務の状態を解消し、財務再構築を図り、債務者の再建可能性を高めるために、債権者(主に金融機関)が、合理的かつ実現可能性の高い再建計画と一体で、債務者に対して有する既存の債権を劣後化することで、実質的に債務者の財務状態を改善して、信用力や再建可能性を高めるものです。当該債務については通常ローンから劣後ローンに転換されるため、一定期間は元本返済が猶予され、債務者の資金繰りが改善されるというメリットを有します。一方、債権者である金融機関にとっても、 DDSによる財務再構築を通じた企業再生により、貸出債権が健全化されるというメリットがあり、ひいては金融機能の強化、地域経済の活性化にもつながるものとして有効であると考えられています。

加えてDDSは、債権放棄やDESと異なり、債権を別の条件の債権に転換するだけの手法であり、最終的には債務者が返済義務を負う点で変わりはありません。したがって、金融機関にとっては、他の手法と比べれば実行しやすく、また、コベナンツ(注1)を付すことで債務者のモラルハザードを回避することも可能となります。

注1:

コベナンツとは、特定の財務指標を一定数値以上に維持することをあらかじめ約定し、この約定に違反した場合には期限の利益を喪失させたり、融資条件の見直しを行ったりする特約条項のことです。


III.DDSが普及した背景および現況

金融庁が平成15年3月に公表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を受けて、監督局長の諮問する「新しい中小企業金融の法務に関する研究会」が同年4月に設置され、同年7月に「新しい中小企業金融の法務に関する研究会報告書」が公表されました。

本報告書では、担保・保証に過度に依存しない新たな中小企業金融に向けて、財務制限条項の活用および技術力、競争力のある地域に密着した中小企業に関する「擬似エクイティ部分の優先株式への転換(DES)」および「擬似エクイティ部分の劣後ローンへの転換(DDS)」に関し、法制上・会計上の視点等から具体的な検討が行われており、DDSが中小企業の再生手法のための有効な手段であるという研究報告がなされました(詳しくは、「IV.新しい中小企業金融の法務に関する研究会報告書について」参照のこと)。

その後、金融庁は平成16年2月に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の改訂を行い、擬似エクイティ部分を劣後ローンへ転換した場合の取扱いを明示しています(詳しくは、「V.金融機関が実施する自己査定上の取扱い」参照のこと)。

このように外部環境が整備されたことを受け、平成16年3月にDDSの第1号案件が商工中金により実行され、その後も、トマト銀行、もみじ銀行、福岡銀行、泉州銀行、第四銀行、沖縄銀行など、さまざまな地域金融機関によりDDSが実行されています。

なお、経済産業省が平成16年3月に実施した「新たな企業金融に関するアンケート調査」における「DDSについてどのように考えているか」という問いに対しては、都銀の17%および地銀・第二地銀の23%が取組を検討中であり、都銀および地銀・第二地銀の66%が、機会があれば取り組みたいと回答していました。今後、より多くの中小企業の再生の進展が期待されています。

また、会計上の取扱いについては、平成16年11月付けで、日本公認会計士協会から業種別委員会報告第32号「銀行等金融機関の保有する貸出債権が資本的劣後ローンに転換された場合の会計処理に関する監査上の取扱い」が公表されています(詳しくは、「VI.会計監査上の取扱い」参照のこと)。


IV.「新しい中小企業金融の法務に関する研究会報告書」について

III.で述べたとおり、金融庁の諮問機関である「新しい中小企業金融の法務に関する研究会」は、平成15年7月に「新しい中小企業金融の法務に関する研究会報告書」を公表し、この中でDDSについての研究報告をしています。

公表された本研究会報告書の内容は、以下のとおりです。

企業は、その事業インフラを経営環境に対応して整備することが不可欠であり、これに要する資金を継続的・安定的に調達する必要があります。従来、中小企業においては、こうした資本的性格の資金についても、資本ではなく債務という手段によって調達してきましたが、資金調達の法律構成が実態に即していないことは、当事者が各々暗黙のうちに自らの権利義務を想定することを通じ、当事者間の権利義務関係を不明確にしています。その結果、当事者間で認識の相違が生じやすく、問題が発生した際、その食い違いが顕在化する危険があります。

そこで、当事者双方にとって、当該資金に関する権利義務関係を実態に合わせて法律上明確化していくことが有益であり、具体的には、資本的性格の資金調達の手段について、その法律構成を従来の債務から資本性の金融商品へと変換することが考えられます。

>>次のページへ

search




関連サービス

事業再生支援





お問合せ先

問合せフォームをご利用ください。