あずさ監査法人

不動産の流動化について

2000.06

はじめに


ここ数年、バブル崩壊による巨額の不良債権が金融機関の体力を弱め、日本経済に大きな影を落とし、日本の企業は生き残りのためにリストラを余儀なくされています。同時に、経済のグローバル化に伴う国際会計基準の導入は、企業に日本型経営からの脱皮を迫っており、特に連結決算重視の動きと時価主義への移行は企業経営そのものに大きなインパクトを与えております。中でも、"不動産をどのような形態(保有か賃借か等)で活用すべきか"という点は、企業の経営戦略を決定する上で重要なポイントを占めつつあり、市場の経営指標の改善要請に対応する各企業の不動産流動化の試みは、不動産の信用力を背景に保有と利用の分離を可能とする手法として、証券化方式を中心に急速に拡大しています。


不動産流動化の目的

(1)不動産所有者の目的

不動産の所有者から見た流動化の目的としては、次のような点があげられます。

1.

資金調達手段としての流動化
金融ビッグバンの進展による金融機関の競争の激化やBIS基準による自己資本比率の規制等から、金融機関は貸出債権等(資産)の圧縮を迫られています。こうした状況の中、企業にとって不動産の流動化は、間接金融から直接金融への変換を図り、金融機関のクレジット・クランチに対応する有効な手段となりつつあります。これまでの、株や社債といった有価証券は発行主体(資金調達者)の信用力に依存しておりましたが、不動産の流動化は発行主体の信用力というよりも、不動産そのものの価値(収益性)と安全性に着目しています。従って、信用補完の手法をうまく活用して、対象不動産の安全性を高めれば、格付の低い企業でも低コストの資金調達が可能となるケースも出てきます。

また、流動化により不動産そのものに投資する投資家に加え、金融資産に投資する投資家を募ることができ、さらに、小口化することにより投資家層を拡大することが期待できます。

資金調達方法の多様化

資金調達コストの低下

資金調達の円滑化

2.

財務指標の改善
企業が保有する不動産を流動化することによって売却すれば、簿価との差額が売却益になります。その調達した資金で借入金を返済し、資産の圧縮を図ることにより、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)の財務指標の改善につながります。あるいは、その資金を新たな業務の展開や拡大に利用することにより、新たな収益チャンスが期待できます。

また、開発型のスキームにより不稼動不動産を流動化し、稼動化すれば、収益の向上を図ることも可能です。

売却利益の実現

資産のオフバランス効果によるROE、ROAの改善

不稼動資産の稼動化


(2)投資家の目的

投資家から見た流動化の目的としては、次のような点があげられます(詳しくは後述)。

1.

資金の効率的運用
資金の効率運用を目指す投資家が流動化商品に投資する場合、投資の収益性(投資利回り)のみならず、次のような点も考慮するのが一般的であり、流動化商品もその要請に応え得るものでなければなりません。

元本償還の安全性

投資収益の確実性

投資対象の流動性

2.

運用対象の多様化

投資リスクの分散



不動産の流動化商品と証券化商品の違い

不動産の証券化商品は流動化商品の一部を形成するものですが、証券化商品は証券取引法上の有価証券を発行する形態を取るもので、その他の流動化商品と比べ、市場での流通性、換金性を保ちやすいということがいえます。しかしながら、その有価証券が透明性や公平性を持って、自由に売買できる取引市場は、現在、その創設について検討段階にあり整備されておりません。証券化商品が、今後、流通・拡大していくためには、こうした市場の創設が急務であることはいうまでもありません。

(1)主な流動化商品

  1. 抵当証券
    不動産担保ローンを流動化したもので、不動産に設定された抵当権が証券の価値の裏付けとなります。

  2. 不動産小口化商品
    不動産の所有権を共有持分権として小口化したものです。不動産を信託銀行に信託し、その受益権を小口化して販売されたものもあります。これは、証券化商品の位置付けになりますが、指名債権のため、あまり流動性はありません。

  3. 不動産変換ローン
    ローン契約と合わせ、一定期間経過後に不動産の共有持分権を取得できる権利がオプションとして確保されたもので、その変換権を行使すると、ローンの返済金の代わりに不動産の共有持分権を取得できます。

  4. 不動産特定共同事業法に基づく商品
    任意組合型、匿名組合型等があり、投資家に対する保護が強化されています。

(2)主な証券化商品

  1. SPC※の発行する有価証券
    優先出資証券、社債、CP等があります。

    ※いわゆる「特別目的会社」であるSPC(Special Purpose Company)と、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(以下「SPC法」という)に基づく「特定目的会社」(以下「TMK」という)を総称してSPCと表示します。

  2. 信託銀行の発行する信託受益権
    指名債権で、譲渡には信託銀行の承認が必要なこと、信託受益権の分割に制限があること等で、ほとんど流動性がなく、1との組み合わせが多いようです(尚、SPC法の改正により、信託受益権の流動性が高められることが予定されています)。


主な不動産流動化の手法


(1)流動化に必要な不動産の条件

流動化を行う不動産は期間中の利子・配当がその賃料を原資とし、最終の元本償還がその売却代金を原資とすることから、次の条件を満たすことが必要になります。

  1. 所有権等の権利関係が明確で、抵当権等の担保権が設定されていないこと。または、流動化の時点で担保権の抹消が可能なこと。
  2. 賃料条件等の詳細な情報開示が可能なこと。
  3. キャッシュフローが安定的で確実なこと。
  4. 市場での売却が可能なこと。
  5. 不稼動不動産の場合には、開発に係るリスクが限定的であること。

(2)主な流動化の手法

ここで、不動産の形態別に流動化の手法を取り上げたいと思います。流動化の手法には具体的な案件に即して、いろいろなスキームがありますので、基本的なものを説明させていただきます。不動産の形態によって、一つのスキームしか取り得ないというものではなく、いずれのスキームでも流動化が可能となります。

1.賃貸ビルの流動化

  • 匿名組合型(図1参照)
    投資家の保護を目的とした不動産特定共同事業法に基づき、管轄官庁から許可を得た不動産特定共同事業を営むことのできる営業者と投資家が匿名組合契約を締結し、投資家は営業者が行う不動産取引のために出資をします。対象不動産は営業者に帰属しますが、投資家はその不動産から得られる賃料等の利益の中から配当を受けることができます。この匿名組合型とよく似た方式で任意組合型がありますが、匿名組合が有限責任であるのに対し、任意組合は無限責任のため、投資家にとっては匿名組合のほうが望ましい形態と思われます。

2.

SPC型(図2参照)
特定資産の流動化業務だけを行うSPCを設立し、その発行する資産対応証券を活用して資産の流動化を図るものです。「特定資産」とは次のものを指します。

1.

指名金銭債権(金融機関の貸出債権等)

2.

不動産

3.

1.および2.を信託した信託受益権


SPCが発行できる「資産対応証券」は次のとおりです。

1.

優先出資証券

2.

特定社債券

3.

特定約束手形(CP)



2.本社ビルの流動化(図3参照)

  • 信託型(SPC併用)
    本社ビルを所有者(オリジネ−ター)が信託銀行に不動産信託し、その信託受益権をSPCに譲渡して流動化を図るものです。所有者は信託銀行から信託不動産をリースバックし、賃料を支払うことによって、従前どおり本社ビルとして使用することが可能です。信託受益権は前述のように指名債権のため、ほとんど流動性がないので、SPC型を併用することによって流動性を高めた方式です。また、信託型は現行法では不動産登録免許税等の経費面で有利性があります。

3.開発プロジェクト(不稼動不動産)の流動化(図4参照)

  • 開発分譲型
    デベロッパーの保有する開発用不動産をSPCに売却して流動化を図るものです。開発用不動産そのものは流動化の時点では収益を生んでいませんが、開発後のマンション分譲代金を配当及び元本の償還原資に見込んで証券化しています。デベロッパーにとっては土地に資金を固定化せず、開発利益を得られるメリットがあります(図4は土地の売主がSPCで、建物の売主がデベロッパーとなるスキームです)。開発分譲型の場合、プロジェクトを推進するデベロッパーの事業遂行能力や信用力が重要なポイントになります。

4.その他

その他の形態を取る不動産も前記のいずれかのスキームにより、流動化が可能です。具体的に流動化されている例をあげれば、次のとおりです。

  • 研究施設
  • 工場
  • ホテル
  • ガソリンスタンド
  • 駐車場
  • ショッピングセンター


税務の観点


(1)税コストの低減

不動産の流動化は、元利払い優先度が高く基本的には確定利回りであるデット型商品と、元本も配当も変動させることによりリターンとリスクを集約するように設計されたエクイティ型商品という性質の違う商品を組み合わせることにより、不動産のリスク等を補完し合う仕組み作りがされています。従って、不動産の流動化はオリジネーターから見れば不動産を譲渡することにより資金調達を実現させる手法ではありますが、投資家から見れば利回りをねらった「金融商品」であるともいえましょう。利回りをいかに確保できるかにより商品としての価値が高まり、オリジネーターにおける調達コストの低減につながります。そのために、商品設計上からは、いかに課税のタイミングを減らすか(即ち投資家における課税のみにするのか)という"税コストの低減"を念頭においた仕組み作りが必要です。

1)法人税課税の軽減

流動化の主体たるSPCて、課税所得が生じないためには、SPCとしてパス・スルーである必要があります。パス・スルーとなり得るものとして、具体的には下記のものが考えられます。

  1. 特定目的会社(TMK)
    SPC法に基づくTMKは、資産の流動化のために設立され、導管的な存在に過ぎないものであるため、税法上もこれに適合した取り扱いをするよう所要の措置が講じられています。具体的には、TMKのうち一定の要件を満たすものが支払う利益の配当の額については、損金に算入することができることとされています。また、TMKが行う一定の土地等の譲渡については、一般(5年超)及び短期(5年以下)の土地譲渡益に対する特別課税制度(それぞれ譲渡益の約6%及び約12%(法人住民税を含む))は適用されないこととされています。尚、大蔵省を中心に検討が進められてきたSPC法及び証券投資信託法の改正法案は、去る3月17日に閣議決定され、国会における審議が順調に進めば6月にも成立し、本年12月1日までに施行されると見通されています。ここでは、(a)対象資産を不動産及び指名金銭債権に限定されていたのを改め財産権一般に拡大する、(b)特定資産を取得するための借入れを認める、(c)最低資本金を300万円から10万円へ引き下げる、(d)登録制から届出制への移行、(e)資産流動化計画の定款記載事項からの削除、(f)優先出資の減資の解禁、(g)特定目的信託の導入等の変更を加えて、使い勝手を高めることが予定されています。

  2. 匿名組合
    匿名組合においては、匿名組合事業に出資された全財産は営業者のものとされ、匿名組合事業は営業者の単独事業となる一方、匿名組合員は事業の利益(及び損失)を分配される権利を有することになります。そのため、営業者の税引前利益は匿名組合員の出資額に応じて分配され、分配後の金額のみが営業者の課税所得を構成します。

  3. 任意組合
    任意組合においては、全組合員は共同事業を行っているものとされ、組合財産は組合員全員の共有財産とされます。そのため、任意組合の損益は一定の割合に応じて各組合員に分配されることとなります。

尚、現行の土地税制としては、2000年12月31日までの土地等の譲渡について、上記一般及び短期の土地譲渡益に対する特別課税制度の規定の適用が停止されています。また、1998年の改正により、新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入の制度は廃止されています。

2)流通税課税の軽減

上述の法人税等の負担軽減に加えて、物件の移転に伴うコストの圧縮も重要です。一般の法人は、不動産の取得時において、(a)登録免許税は固定資産税評価額の5%、(b)不動産取得税は同じく固定資産税評価額の4%、(c)特別土地保有税は取得価額の3%から不動産取得税を控除した金額が課税されます。ただし、土地に関する登記に限り、2003年3月31日までの不動産価額は固定資産税評価額の1/3に減額されています。流通税を軽減させるためには、一般に下記のような仕組みがとられています。

  1. 不動産信託
    不動産信託における委託者から受託者への財産権の移転の登記については、登録免許税は非課税とされています。ただし、別途信託設定の登記は必要となり、この場合の登録免許税は原則として固定資産税評価額に対して、6/1000相当とされています。一方、不動産取得税については、委託者から受託者に信託財産を移す場合は、非課税とされています。土地の取得に係る特別土地保有税についても不動産取得税に準じて取り扱われることとされていますので、非課税となります。また、不動産取得税は"不動産の取得"に対して課税されることとされ、不動産を信託財産とする信託受益権はこの"不動産"の定義には該当しないと実務上解されています。従って、不動産信託に係る信託受益権の売買は、法人税法上は不動産の売買とみなされますが、不動産取得税の上ではあくまで債権の売買として取り扱われていることになり、この重い負担がほとんど回避できることになります。

  2. 特定目的会社(TMK)
    TMKが2000年3月31日までに特定資産を取得した場合の特例措置として、所有権の移転登記に対する登録免許税については、取得後1年以内に登記を受けるものに限り税率を1/2(2.5%)とされ、不動産取得税については課税標準を1/2とする措置がとられています。また、土地の取得に係る特別土地保有税については、非課税とされています。ただし、上記1)1.で述べた改正SPC法においては、それぞれの特例措置について適用期限を2年間延長することが予定されています。

(2)譲渡損益の認識

上記(1)でも述べたようにエクイティ型商品は、社債償還時に不動産を売却して元本割れした場合に、損失を吸収するクッションのような役割を担う場合が想定されます。そのため、地価下落リスクの凝縮したエクイティ部分を資金調達する企業自身で持つケースが見受けられます。その場合に、税務上、売却損益を認識できるかという問題点があります。

税法上、法人が資産を譲渡した場合には、その売却価額(時価を前提)と簿価との差額は、原則として譲渡益または譲渡損として、譲渡があった事業年度の益金または損金として取り扱われます。この際、売却価額が適正な時価と異なる場合には、時価との差額については寄付金あるいは受贈益の問題が発生する場合もあります。また、税法には取引の法形式に係らず、その経済的実質に着目して課税関係を判断するという、いわゆる実質課税の原則も存在します。例えば、譲渡担保のように法形式上は譲渡であっても、その経済効果が借入れと同様であると認められる場合には、それを売買取引とはせずに金融取引として取り扱うこととされています。また、一方では、一部のファイナンスリース取引のように法形式上では売買でなくとも、その経済的な効果が資産の譲渡あるいは借入れと同様であるとみなされるものについては、それぞれ売買取引あるいは金融取引として取り扱われることとされています。

これらの税法の考え方から、資産の譲渡損益の実現、とりわけ譲渡損失が税務上損金として認められるためには、その資産の保有または運用もしくは処分から生じる将来的な経済的利益を享受する権利及びその資産から生じる損失が譲受人に移転しており、これらが直接的に譲渡人に還元する可能性の有無によって判断すべきものと考えられています。


会計の観点

(1)SPCを活用して不動産を流動化した場合の売却の認識について

不動産の所有者(オリジネーター)が、不動産の流動化によって売却益の実現やオフバランス効果を目指す場合、不動産の譲渡が会計上も売却と認識されるか否かが大きな問題となります。なぜならば、取引が形式上売買であったとしても、会計上は売買でないとみなされると、所有者はいずれの目的も達成できないからです。この点、SPCを活用して不動産を流動化した場合の売却の認識については、2000年5月に日本公認会計士協会が公表した「実務指針(公開草案)」によって統一化の方向が示されました。

(2)リスクと経済価値アプローチの採用

公開草案は、不動産の売却認識の基準を、「不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転した場合」とする考えを採用しています。契約や登記等の形式ではなく、実質によって売却認識の判断をすべきという考えです。この考え方は、不動産信託受益権の譲渡にも適用されます。

これに基づき公開草案は、所有者が「買戻しの権利・義務」「不動産からのキャッシュフローや残存価額の保証」「SPCの発行する証券等の保有」等の「継続的関与」を有する場合についてはその内容を十分に検討すべきとしています。また、公開草案は、所有者のリスク負担の金額、即ち、「当該不動産がその価値のすべてを失った場合に(所有者に)生じる損失」が、不動産譲渡時の適正な価額(時価)の5%程度内である場合には、ほとんどすべてのリスクと経済価値が移転していると考え売却が認められるとしています。

(3)適用時期

この実務指針は、その公表日以降に行われるSPCを活用した不動産流動化取引について適用されることとなっています。それ以前の取引に遡って適用する必要はありませんが、期限到来に伴って更新(リファイナンス)される場合には買戻しが行われたものとして処理することが提案されています。


投資家の観点の観点

バブル崩壊後、日本の不動産市場に構造変革が起きておりその第一は「地価の周期的な変動」です。地価の右肩上がりを期待できない今、不動産を売買するだけで得られるキャピタルゲインを過度に期待することは現実的ではありません。これに代わり、不動産の所有期間中の「インカムゲイン」に期待の重点が移行してきています。昨今の収益還元方式に基づく不動産評価額による商業用不動産の売買は、このインカムゲインそのものの価値を基礎としたものであり、必然的に不動産価格は不動産の生み出す収益に応じて変動することになります。

第二の構造変革は、「他の投資対象との競合」です。不動産の利用価値そのものが問われる以上、不動産の所有を前提とする必要はありません。その結果、不動産は過去バブル経済時のように「所有」を前提とする特別な資産ではなく、他の投資対象と同様の観点から一つの投資対象として捉えることになります。

不動産投資、株式投資、債券投資の三種の投資に対するリスクとリターンを比較すると、一般的には債券投資はローリスク・ローリターン型(リスクも低いがリターンも低い)であり、これに比して株式投資はハイリスク・ハイリターン型、不動産投資は両者の中間であるといわれています。投資家は、これら投資対象の性質を理解した上で、自己の投資目的に照らしてどのように資金を配分すれば良いかを検討して投資することになります。

特に不動産の証券化は、これまでの主流であった、ハードアセットとしての不動産そのものへの投資と比較して、投資金額の少額化、不動産専門家の機能・判断の活用によるキャッシュフロー予測の精緻化等、投資家に魅力的な部分が多いといえます。しかし、不動産証券化商品への投資にあたっては、株式・債券投資と同様に投資家の自己責任において、目論見書、約款等により下記の点を吟味する必要があります。

(1)証券化スキームの内容

対象不動産は何か、オリジネーターは誰か、アレンジャーは誰か、投資資金はどのように使われるのか、配当・元本は何を原資にどのような経路で支払われるのか等、証券化がどのような仕組みでできているかを吟味します。資金及び対象不動産の管理を誰が行うのかにも注目します。

(2)リスクとリターンのバランス

利回り・元本の保証はあるのか、保証がない場合、どれくらいのリターンが期待できるのか、そのためのリスク(不確実性)はどれくらいあるのか、リスク要因はどこにあるのか、同程度のリターンを期待できる他の投資手段と比べてリスクは高いか等、投資先として魅力があるかを吟味します。将来はリターンの変動性を標準偏差で見る等、統計指標による吟味も可能になってくると思われます。

(3)投資期間

満期までの期間はどれくらいか、中途解約は可能か、中途解約コストがかかるか、第三者への売却のための二次市場があるか等、証券の流動性について吟味します。

(4)証券化対象不動産の物理的特性・維持管理体制

対象不動産の耐震設計はどうか、環境問題等で賃料が減少する可能性はないか、テナントにとって魅力的な物件であるか、メンテナンスは適切になされているか等、配当・元本返済の源泉である賃料収入に対する不確実性を吟味します。

本来の不動産の証券化においては、対象不動産のキャッシュフロー(賃料収入)と担保価値(売却価値)が証券の返済原資となり、不動産を分離したオリジネーター(対象不動産の所有者)に対して返済責任を訴求することはできません。しかし、日本で実際に行われている事例では、オリジネーター自身が証券の信用をある程度まで保証し、劣後証券を取得すること等により補完することが多いように見られます。東急不動産が実施した事務所ビル(赤坂東急ビル)の証券化のケースでは、信託を利用し、第一受益権(優先)を投資家に販売し、第二受益権(劣後)を東急不動産が保有する形になっています。この事例は、本当の意味での証券化とは言い難いものですが、不動産投資顧問会社や格付機関が十分に機能していない現状や、日本人の投資に関する保守的思考(元本保証に対する執着)を考えると、必要な工夫といえるのかもしれません。

今後、不動産の証券化商品関連の法整備と二次市場の創設により流動性が確保され、投資家がリスクマネーを投下しやすい環境が整備されていくにつれ、不動産の証券化商品が投資家にとってますます魅力的な投資商品の一つとなることが期待されます。


今後の動向

これまで見てきたように、不動産の流動化には比較的単純な不動産の小口化から、不動産信託や投資信託を仕組みに取り込んだ複雑な証券化まで様々な方法があります。現状では、金融機関からの担保不動産流動化要請や企業の資産圧縮ニーズ等により、特に不動産の証券化技術を活用した流動化が極めて活発に行われています。

こうした不動産の流動化は、今後、どのような展開を見せることになるのでしょうか。以下では、新たに導入が予定されている「不動産投資信託」という制度が大きなインパクトを及ぼすと見られますので、この内容と、モデルとなった米国のREIT(「リート」と発音し、Real Estate Investment Trustの略)の概要を整理して検討してみたいと思います。

(1)不動産投資信託制度の整備

不動産投資信託を一言でいえば、投資対象となる不動産を特定せずに、不動産投資の専門家に投資を一任して運用してもらい、その収益を得る仕組みです。

これまでに商品化された不動産の小口化商品やSPCによる証券化商品等の不動産流動化商品は投資対象となる不動産が特定されていましたが、不動産投資信託は、例えば「主としてオフィスビルに対する投資を行う」という投資対象のカテゴリーが示される程度で、基本的に投資する個々の物件を提示して投資を募るというものではありません。

投資家はその不動産投資信託を運用する会社に信頼を寄せて投資するわけですから、最初にその不動産投資信託をたち上げる会社は、運用に対する相当の信頼を得ていることと投資対象となる複数の不動産が投資家に一定の収益をもたらすことを何らかの形で示すことが必要となります。また、既にたち上がり、運用されている不動産投資信託に投資する場合は、株式投資の場合と同様に、その証券の市場価格と運用成績を見て判断することになるでしょう。

このような一任方式による不動産投資は、米国ではREITとして1960年からの歴史があり、また、オーストラリアのプロパティ・トラスト、ドイツのオープン・エンド・ファンド等、海外では一般的な方式といっても良いでしょう。

こうした不動産投資の仕組みを我が国でも導入しようと、不動産投資信託の制度を創設する法案が今国会に提出されており、順調に法案が通過すれば年内にも新たな不動産投資の仕組みがスタートします。

(2)不動産投資信託のスキーム

今後、我が国で制度化されるであろう不動産投資信託の仕組みの一例を図5に示しました。不動産投資信託は、不動産と金融の融合した極めて高度な技術を使った仕組みであるため、やや複雑になっていますが、これまでの不動産投資と同様、投資対象となる不動産物件に投資家が直接投資するということに基本的な相違はありません。

ただし、不動産を小口化する、自由に売却ができるようにする、専門家に投資一任する等のニーズに対応するために、投資家と不動産物件の間に種々の構造※1を作り上げて証券化商品としています。

金融セクターでは、投資家から一任を受けた投資信託委託会社や不動産投資顧問会社が、信託銀行に金銭信託してから不動産投資法人に投資します。この不動産投資法人はあえていえばペーパーカンパニー※2で、一任されている不動産投信委託会社や不動産投資顧問会社が実質的に不動産の取得・資産管理・売却等を判断し、実行します。

一方の不動産セクターでは、不動産投資法人が直接実物不動産を取得する場合もありますが、例えば一度信託してからSPCに信託受益権を移転し、SPCの発行する証券に不動産の価値を転換することも多いでしょう。SPCでは資産対応証券をハイリスク・ハイリターン型の優先出資(エクイティ:Equity)と、ローリスク・ローリターン型の特定社債(デット:Debt)に切り分けて、投資ニーズに対応しやすくします。

こうした例のように、複雑な構造を取りながらも投資家と不動産が結合したペーパーカンパニーである不動産投資法人は、その収益の一定以上を投資家に配当すると、この段階での収益税は投資家にかからないことになります。また、不動産証券取引市場が整備される予定で、上場された不動産投資法人への投資証券を持つ投資家は、いつでも不動産投資証券を換金できるようにもなります。

※1

ここでは便宜的に「金融セクター」と「不動産セクター」としてまとめました。

※2

米国REITはペーパーカンパニーではなく、開発力やマネジメント力の強弱によって投資家に評価され、選別される「不動産会社」的存在です。法案が通っていない日本の不動産投資信託の内容については予断を許しませんが、当面ペーパーカンパニー的な位置付けになる可能性が高いと見られます。



(3)米国REITについて

日本の不動産投資信託制度のモデルになったのが米国のREITですので、その概要を見ると日本の不動産投資信託がどのような姿になるか、参考となるでしょう。

米国では、現在300以上のREITがあり、そのうちの2/3程度が上場しています。REITは幾つかのタイプ分けができますが、リスク・リターン別に見ると収益追求型のエクイティREITが主流で(上場REITの92%)、ショッピングセンター、住宅、オフィス、ホテル、老人ホーム、リゾート、工場等に特化しているREITとこれらを混合して所有するREITとがあります。

REITの歴史を見ると、税制や投資資金の大きなうねりによって変遷がありますが、S&Lの破綻処理が進んだ1992年以降に大きな発展を見せ、現在のREIT資産総額は約2,500億ドル(110円換算で27.5兆円)となっています。

REITの投資家は、個人、ペンションファンド(年金基金)等ですが、基本的に不動産の特性であるインフレヘッジ機能を持つこと、また、株式運用と比較して価格変動が少なく、年間6-8%程度の運用益を得ることができることから、安定的な長期運用商品として位置付けられています。

(4)今後の動向と関連業務

REITのみならず、こうした投資一任型の不動産証券化商品は、市場での証券取引という流通性と相まって、欧米や一部アジアでも制度が確立されています。日本でも地価の底値圏に達したという見方から、内外の不動産会社、金融機関等が不動産投資信託の解禁に向けて準備を進めている状況です。また、近い将来の日本の不動産投資信託の規模は、数年内に数兆円から人によっては数十兆円オーダーになるという意見まであり、こうした海外の例を見ても大きな動きになることはほぼ確実と見られます。

90年代の地価下落と金融機関のクレジット・クランチによって、日本の不動産は動かないままとなっていましたが、不動産に直接投資する太いパイプである不動産投資信託の登場によって、金融機関の間接金融を待たずに不動産が動き始めることになるでしょう。ただし、こうした流動化商品の対象となる不動産は、賃貸によって収益を生み、また、投資対象としてふさわしい立地条件や用途、テナントの質等の点で市場の選別に耐えるものであることが要求されます。使い道のない更地の値段まで上昇するわけではないということに留意が必要です。

また、こうした不動産に関する大きな構造改革に伴って関連する新しいビジネスもたち上がりつつあります。

特に不動産投資顧問会社は不動産投資信託の投資一任を受ける存在となることから、大手不動産会社系、金融機関系、独立系等、既に30社ほどあるといわれており、これに対応して、その業務範囲と資格要件、登録・許認可の方法等について、現在建設省と大蔵省が準備を進めています。さらに、不動産管理専門会社や不動産流動化に関するコンサルティング会社、サービサーの設立等、不動産の流動化に関する新しいビジネスが動き始めており、現状を表現すれば、本格的な不動産投資新時代が動き出す前夜といえるでしょう。