あずさ監査法人

金融商品の時価会計制度導入について

2000.04


金融商品に対する時価会計制度の導入


平成12年4月1日より開始する事業年度から、いよいよ金融商品に関する時価会計制度が導入されます。時価会計制度の導入は日本の会計制度にとって画期的なことといえます。これによって企業の財務活動がすべてガラス張りになります。企業は従来の財務管理のやり方を根本的に変えていく必要があります。今回は時価会計制度導入の背景と、金融商品の新時価会計の主要な内容および企業が時価会計導入に対処して実施しなければならないこと等について解説します。


利益とは何か

金融商品に対して時価会計制度の導入が何故必要とされるのでしょうか。ここではまず、現行会計基準における利益とは何かについて考えてみましょう。今、下記の図のような、みかんを売買するマーケットがあるとします。このマーケットは誰でも自由に参加できるマーケットで、誰もが今年度出荷のみかんや、翌年度以後出荷のみかんを自由に売ったり買ったりする契約を実施することが出来るとします。ただし、現時点でのみかんの値段はその出荷年度によって異なっています。すなわち、2001年度、2002年度の値段は、2000年度の値段より高くなっています。また、みかんの価格は市況商品であるため、常に変動するものとします。


A社で以下の契約を1単位ずつ行ったとします。すなわち、売りについては、2000年度、2001年度、2002年度の3年間に、みかんをそれぞれの年度で1単位ずつ売る契約を3年分の平均単価11で実施します。一方、買いについては、2000年度だけの買い契約を単価10で実施します。2000年度において、A社はこの契約に基づいて、1単位のみかんの実物を10で買い、1単位のみかんの実物を11で売りました。この時、現行会計基準での利益はいくらと算定されるでしょうか。

現行会計基準での利益 売り価格11−買い価格10=利益1


A社の計上した利益1は本当に正しいのでしょうか。A社の買い値段も、売り値段も、どちらも単なるマーケットでの値段です。A社が年度の異なる2つの契約を実施してこのような利益を出すことは、少しおかしいということに気づかれるでしょう。さて、どこがおかしいのでしょうか。

A社の契約残に注目してみましょう。A社は2000年度の終わりには、2001年度分と2002年度分のみかんを11で売る契約が残っています。これをマーケットの価格と比べてみますと、当初契約した時点からマーケットの価格が変動していない場合には、1の含み損があります。すなわち、2001年度については、マーケットの価格とA社の保有する売り契約の平均単価は同じで損益はありませんが、2002年度についてはマーケットの価格12のものをA社は平均単価11で売るという契約が残っており、ここに含み損があります。さて、A社の損益の状況を正確に表わすためには、このような残っている契約の含み損を会計上、計上するための制度が必要となります。この制度が時価会計制度です。時価会計基準ではA社の利益は次のようになります。

時価会計基準での利益 売買益1―評価損1=0


利益はマーケットよりも安く買い、マーケットよりも高く売ることによってのみ実現するといえます。A社のようにマーケットで年度の異なる2つの契約を実施しただけで、すぐに利益をあげるという会計処理は問題があるといえます。

現行会計基準では、A社に見せかけの利益1が計上されていましたが、時価会計では、利益ゼロとなります。このように時価会計を導入することにより、A社の利益を正しく計算することが出来ます。上記のみかんの契約のように、2期間以上にまたがる契約の損益認識には注意が要ります。金融商品にはこのような内容の契約が多くあります。金融商品では、みかんの価格の代わりに、それが金利であったり、為替レートであったりします。また、スワップ、オプション、先物等のデリバティブは、2期間以上にまたがる様々なキャッシュフローの契約があり、このような特質を持っている金融商品であると考えられます。すなわち、デリバティブのキャッシュフローを見ているだけでは、その損益の状況がわかりづらいものであるといえます。したがって、デリバティブ契約の損益を正しく把握するためには、時価会計の適用が特に重要となります。

デリバティブは時価評価しないと経済的実態がつかめない金融商品である


金融商品の時価会計制度が必要とされる背景には活発になったデリバティブ取引の損益を正しく認識する必要があるという社会的経済的要請があります。


時価会計とは

時価会計とは、決算時における金融商品の契約残の含み損益を認識する会計であるといえます。時価会計を導入することにより、A社は上記の例のように、現行会計基準での見せかけの利益を排除しました。

さて、A社のマネジメントはこれで安心していられるでしょうか。時価会計の適用により、決算時までの含み損は計上することが出来ました。ところが、A社は2001年度、2002年度において、みかんの売り契約だけが残っています。今後のみかんの価格の変動によって、現時点の含み損1が今後大きく増減するリスクがあります。時価会計の適用は、すでに実現した損益はとらえることが出来ますが、今後、発生するかもしれない損失については、対応することは出来ません。したがって、A社としては、含み損が今後大きく増減しないようなリスク管理を実施することが必要となります。

このような持っている契約残(ポジション)の今後の損失発生リスクを管理することは、一体何をすることでしょうか。持っている契約残は、市場価格が変動すると大きな損失が発生するリスクがあります。市場価格が変動した時、反対の方向に価格が動く契約を実行することにより、契約残(ポジション)のリスクの大きさを軽減することが出来ます。このような将来の価格変動リスクを軽減する取引をヘッジ取引といいます。A社の場合のヘッジ取引は、2001年度と2002年度のみかんを、それぞれ1単位ずつ買う契約を実施するか、同様の経済的効果のある契約を実施することになります。ヘッジ手段を実施することにより、みかんの市場価格の変動から、今後損失が増減することを防ぐことが出来ます。

すなわち、金融商品を取扱うビジネスを管理するためには、金融商品の実態把握のための時価会計の適用と、金融商品の将来損失のリスク管理、金融商品のリスク軽減手段としてのヘッジ取引の実行は、すべて三位一体の一連のものとしてとらえることが重要です。

金融商品のビジネスの管理:時価会計、リスク管理、ヘッジは、三位一体



時価変動のリスク管理手段としてのデリバティブによるヘッジ

企業は、将来の市場価格の変動により、保有する金融商品の現時点までの含み損益が、今後これ以上変動しないように、今後の市場価格の変動に対する損益影響を相殺する取引(ヘッジ取引)を実施して、今後の時価変動リスクを管理することになります。

この場合のヘッジ取引として使われるのが、デリバティブ契約です。ところが、先に述べたように、デリバティブは時価評価しないと経済的実態がつかめない金融商品であるといえます。したがって、デリバティブについては、まず最初に、すべて時価評価してその経済的実態を把握することが必要となります。ここで、デリバティブをヘッジ手段として使った場合には、デリバティブの時価評価差額の会計処理が重要となります。ヘッジ手段として使ったデリバティブの時価評価差額の会計処理を、ヘッジ対象の会計処理と一致させるような会計処理がヘッジ会計というものです。



ヘッジ会計とは


ヘッジ会計とは、ヘッジ対象とヘッジ手段の各会計期間における損益認識を一致させるための会計処理方法であるといえます。これは、ヘッジ対象である金融商品の会計処理方法に、取得原価会計と、時価会計が混在しているために必要とされるものです。別な言い方をすれば、金融商品すべてに時価会計が適用されれば、ヘッジ会計の必要はなくなるということです。

ヘッジ手段であるデリバティブの評価方法は、原則として時価評価であるため、ヘッジ会計は、ヘッジ手段であるデリバティブの評価差額の会計処理を、ヘッジ対象の会計処理と一致させるためにどのようにするかという会計となります。ヘッジ会計の方法として、基本的に3つの方法が考えられます。

第1の方法は、ヘッジ手段であるデリバティブの時価評価差額を貸借対照表上繰延べ、当期の損益に計上しない方法です。これにより、ヘッジ対象に取得原価会計が適用されている場合に、会計処理を一致させることが出来ます。この方法を、繰延べヘッジといいます。

第2の方法は、ヘッジ手段とヘッジ対象の両方に時価会計を適用し、両方の時価評価差額を当期の損益に計上することにより、ヘッジ手段であるデリバティブの会計処理と、ヘッジ対象の会計処理を一致させる方法です。この方法を時価ヘッジ(公正価値ヘッジ)といいます。

日本におけるヘッジ会計の方法は、第1の方法を原則としますが、第2の方法も認められる場合があります。一方、米国での基準においては、第2の方法が原則となります。

第1の方法と第2の方法のヘッジ会計方法の実質的な違いは、有効でないヘッジ部分の取扱いにあります。後で述べますが、ヘッジ会計が適用される場合でも、ヘッジ手段がヘッジ対象のリスク相殺に関して、必ずしも100%有効であるとは限りません。実際には80%から125%有効であればヘッジ会計が適用できます。第1の方法では、有効でないヘッジ部分は貸借対照表上に繰越されることになります。一方、第2の方法では、有効でないヘッジ部分は当期損益に計上されることになります。

米国基準では第2の方法の他に、キャッシュフローヘッジという別の方法が認められます。これはヘッジ対象が予定取引等のように未だに貸借対照表に計上されていない場合に使う方法で、ヘッジ手段であるデリバティブの時価評価差額を資本の部に計上して繰延べる方法です。これは、ヘッジ対象が予定取引等であるため、貸借対照表に計上することが出来ず、時価評価すべきヘッジ対象が存在しないために、考えられた方法であるといえます。


日本における時価会計とヘッジ会計基準

日本における時価会計とヘッジ会計の基準として次のものが公表されました。

  • 平成11年1月22日
    「金融商品会計基準」−企業会計審議会
  • 平成12年1月31日
    「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」
    −日本公認会計士協会

これらの基準によって、金融商品の下記の内容が制定されました。

  • 金融商品の範囲等、金融資産および金融負債の発生および消滅の認識
  • 金融資産および金融負債の貸借対照表価額等、貸倒見積高の算定
  • ヘッジ会計
  • 複合金融商品

有価証券の時価評価

今回の金融商品に対する新会計基準により、企業は、子会社株式および関連会社株式を除く有価証券を保有目的により下記の3区分に分類することが必要となりました。この区分は、有価証券の取得時に実施することが必要とされます。ただし、この時価会計に関する新会計基準の適用前から保有していた有価証券については、これまでの区分に関係なく、各企業における新会計基準の適用時点(平成12年4月1日以後に開始する会計年度の開始日)において、新たに区分することが必要とされます。

  • 売買目的有価証券
  • 満期保有目的の債券
  • その他有価証券

(1)売買目的有価証券

有価証券の売買を頻繁に繰返し実施している企業の場合には、当該有価証券を売買目的有価証券として分類します。

売買目的有価証券については時価評価をし評価差額は当期の損益に計上します。なお、企業が保有する有価証券を売買目的有価証券として分類するためには、定款の上で、有価証券の売買を業としていることを、明示することが望ましいとされています。また、トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の部署によって、当該有価証券の保管、運用が、実施されていることが望ましいといえます。

(2)満期保有目的の債券

債券を満期保有目的で保有する場合には、満期保有目的の債券として分類します。この場合の債券は満期に額面で償還されることが要件となります。満期保有目的の債券については、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないため、償却原価法という方法で算定した金額で貸借対照表に計上します。これは基本的には取得原価による計上ですが、取得価額が額面額でない場合にその差額を満期までの期間で取得原価に調整した金額で計上する方法です。調整方法は、原則として利息法ですが、継続適用を条件に定額法で実施することも出来ます。

満期保有目的の債券として区分するためには、債券の取得時に満期保有目的であることを文書上で表明することが必要です。

満期保有目的に分類された債券には、重要な制約があります。満期保有目的の債券として一度分類した債券について、その一部を償還期限前に売却した場合には、満期保有目的の債券として分類された残りのすべての債券について、満期保有目的からの変更が求められます。さらに、保有目的の変更を行った事業年度を含む将来の2事業年度においては、取得した債券を満期保有目的の債券として分類することが出来なくなります。これは非常に厳しい規定といえます。したがって、企業としては、もし一部でも将来売却するような可能性があれば、最低限その部分の債券については、最初から、満期保有目的の債券として分類しないようにすることが必要といえます。

(3)その他有価証券

上記の2つの分類に区分されなかった有価証券は、その他有価証券として分類されます。その他有価証券は、長期的な時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券や、持合い株式のような業務提携等の目的で保有する有価証券が含まれます。その他有価証券に分類された有価証券については、時価評価をしますが、評価差額は、原則法においては、当期の損益には計上されず、税効果適用後の純額を、資本の部のその他の剰余金に、有価証券評価差額として記載します。

例えば、実行税率が40%である場合に、その他有価証券の評価差益が100の時の会計処理は、資産側は、その他有価証券が、100増加した時価で表示されますが、負債資本側は、税効果としての繰延べ税金40が、負債の部に計上され、資本の部のその他剰余金に、税効果適用後の純額60が有価証券評価差額として計上されます。

一方、評価差額のうち差損部分を当期の損失に計上し、差益部分についてのみ税効果適用後の金額を資本の部に計上する方法も認められます。

その他有価証券の時価の適用には例外があります。その他有価証券の決算時の時価は、原則として期末時の市場価格に基づいて算定された価格が適用されますが、継続適用を条件として、期末前一ヶ月の市場価格の平均に基づいて算定された価格を時価として用いることも出来ます。


減損会計の適用

売買目的有価証券以外の有価証券に対する減損会計の適用は次のようになりました。個々の銘柄の時価が著しく下落した場合で回復する見込みがあると認められない場合には、時価までの評価差額を当期の損失として処理することが要求されます。時価が取得価額に比べて50%以上下落した場合には時価が著しく下落した場合とされます。この場合には、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行う必要があります。

有価証券の時価の下落率が、30%未満の時には、著しく下落した場合に該当しないとされます。したがって、通常は減損会計の適用は必要とされません。

時価の下落率が30%から50%の間である場合には、その評価差額を減損処理するかどうかの合理的な基準を、各企業で設定することが必要とされます。企業の設けた基準に該当し、重要性がある場合には、時価の回復可能性を判定することが必要とされます。


デリバティブの時価評価の留意点

先に述べたように、デリバティブは時価評価しないと経済的実態がつかめない金融商品であるといえます。今回の日本の金融商品会計においても、デリバティブ取引は原則としてすべて時価評価することが要求されます。時価評価されたデリバティブの評価差額は、原則としてすべて当期損益に計上されることになります。ただし、ヘッジ会計の要件を満たしているデリバティブの評価差額については、ヘッジ会計が適用されます。

非上場デリバティブについても、一般にその基礎商品の市場価格があれば、時価の見積が可能であるとされています。したがって、複雑な内容のオプションが多数含まれているデリバティブについても、その基礎商品が、金利、為替レート、株価等の市場価格が存在しているものを基礎商品とするデリバティブである場合には、時価の見積が可能であるとされます。同様に仕組債等に含まれているデリバティブ取引も、その基礎商品の市場価格が存在している場合には、どんなに複雑な内容であっても、時価を算定することが出来るものとされます。

一方、デリバティブ取引の基礎商品に、現時点では合理的な市場価格が存在しないとされるウエザーデリバティブやクレジットデリバティブについては、時価の見積が不可能であると考えられるために、取得価額で、貸借対照表価額とすることが許されます。

デリバティブ取引を、ヘッジ目的以外で利用している企業は、デリバティブ取引のリスク管理のために、より頻繁かつ正確に時価を管理する必要があるといえます。この場合、経営管理上用いている時価を、信頼し得る水準のものとして会計処理に用いることが適切であると考えられています。

当期の損益に大きな影響を及ぼすような時価変動の可能性のある仕組債等のデリバティブ取引を行っている企業は、当然のこととして、その時価変動の管理ツールとして、時価算定モデルおよび将来の損失リスクを管理するツールとしてリスク値算定のためのモデルを保有していることが当然とされます。

ただし、主としてヘッジ目的で、デリバティブ取引を利用している企業や、エンドユーザーとして損益影響の小さなデリバティブ取引を限定的に利用している企業で、自ら信頼し得る時価の算定能力を有していない場合には、取引相手の金融機関や、ブローカー等の提示する価格に基づいて時価を使用することが出来ます。この場合にも、入手した時価の使用についての責任は、依然として企業自身にあるといえます。したがって、取引相手の金融機関や、ブローカー等から入手した時価について何らかの検証手続を実施するための体制を構築することが必要です。

現在、日本企業の多くは、実に多種多様な複合金融商品を保有しています。多くは仕組債という形を取っています。ハイリスクな仕組債等も多数出回っています。仕組債等の時価評価については、経営者が認識していない評価損が含まれている場合があります。

例えば、下記のノックイン型為替リンク債は、期間20年で通常より高い金利4%がついています。ただし、期間20年のうちに一度でも為替レートが1ドル85円に達した場合に、発行時の為替レート110円を基準とするドル建ての外貨建て債券に変わります。現時点で例えば、1ドル105円になった場合、ノックインレベルからは、まだ十分に余裕があるため、この時点では、この債券については、一見評価損が生じていないように見受けられます。しかしながら、現時点でこの仕組債の時価を算定した場合に、すでに相当金額の評価損が生じている場合があると考えられます。

このような仕組債の時価を算定することは容易ではありません。仕組債のリスク管理を正しく行うためには、時価算定モデルとリスク値算定モデルを保有することが必要です。



ヘッジ会計適用上の留意点


ヘッジ取引には、ヘッジ対象の時価変動を相殺するものと、キャッシュフローを固定するものがあります。

デリバティブは原則としては、時価評価され、評価差額は当期の損益として計上されますが、デリバティブがヘッジ手段として使われている場合で、ヘッジ対象が、取得価額で計上されるものである場合や、ヘッジ対象が時価評価されても、その評価差額が当期損益に計上されず、資本の部に計上される場合には、ヘッジ会計を適用し、ヘッジ対象とヘッジ手段の会計処理を一致させる必要があります。取得価額で計上されているヘッジ対象にヘッジ会計を適用した場合には、ヘッジ手段を時価評価した差額を貸借対照表上繰延べることとなります。時価評価されるが、評価差額を資本の部に計上するヘッジ対象にヘッジ会計を適用する場合には、ヘッジ対象とヘッジ手段の両方の時価評価差額を当期損益に計上し、両方の会計処理を一致させます。

このようにヘッジ会計は、原則的な処理方法を変える会計処理であるため、その適用については厳密な条件の設定が必要となります。

ヘッジ会計の適用に当たっては、ヘッジ取引時(事前テスト)の要件と、ヘッジ取引時以後(事後テスト)の要件が、設定されています。

事前テスト

ヘッジ会計を適用するための要件として、企業は、ヘッジ取引開始時に次の事項を正式な文書で明確にすることが必要とされます。

1.

ヘッジ手段とヘッジ対象の対応関係の明確化
ヘッジ手段がヘッジ対象のどのような相場変動またはキャッシュフロー変動のリスクを相殺するものであるかについての関係を正式な文書で明確にする。

2.

ヘッジの有効性の評価方法
企業はヘッジの開始時点で、ヘッジの有効性を評価する方法を明確にする。同種のヘッジ関係には同様の有効性の評価方法を用いる。

3.

ヘッジ取引がリスク管理方針に従ったものであること
ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが次のいずれかによって客観的に認められること。

(1)

当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることを文書で確認する

(2)

企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定および内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従った処理であることが客観的に認められること

ヘッジの指定

ヘッジの指定は、ヘッジ取引日、識別したヘッジ対象、ヘッジするリスクの種類、選択したヘッジ手段、ヘッジ割合、ヘッジを意図する期間等を確認できるような形で実施することが必要とされます。

個別ヘッジと包括ヘッジ

ヘッジ対象の識別は、資産または負債等について取引単位で行うこと(個別ヘッジ)が原則です。

ただし、ヘッジ手段の最低取引単位がヘッジ対象の取引単位より大きい場合や、ヘッジ取引のコストを軽減する目的で、リスクの共通する資産または負債をグルーピングしてヘッジ対象とする方法(包括ヘッジ)も認められます。

包括ヘッジを適用するためには、ヘッジ対象の個々の資産または負債の時価またはキャッシュフローの変動割合が、ヘッジ対象資産または負債全体の変動割合に対して上下10%の範囲であることが必要とされます。これは非常に厳しい規定であるといえます。例えば、債券ポートフォリオをグルーピングしてヘッジ対象とし、包括ヘッジの条件を満たすためには、含まれる債券の期間、金利等をほぼ一致させる必要があるといえます。一方、株式ポートフォリオの時価変動を株価指数先物でヘッジしようとした場合、個々の株式の変動割合が、株式ポートフォリオ全体の変動割合の、上下10%の範囲に入るということは通常考えられないため、包括ヘッジの対象とすることは出来ないことになります。

ただし、ここで一つだけ例外があります。銀行業については、金融商品会計適用に関する当面の会計上および監査上の取扱いとして、例外的に、株式ポートフォリオの時価変動を株価指数先物で包括ヘッジすることを認めています。この場合、ヘッジ会計適用に関するすべての要件は満たす必要がありますが、個々の株式の変動割合が、株式ポートフォリオ全体の変動割合の、上下10%の範囲に入る必要があるという包括ヘッジの規定は適用しなくてもよいこととなります。

事後テスト

企業は、指定したヘッジ関係について、ヘッジ対象とヘッジ手段に相場変動またはキャッシュフロー変動に関して高い相関関係があったことを、事前テストで明確にしたヘッジの有効性の評価方法を使って、テストすることが必要とされています。このテストは、決算日には必ず実施しなければなりません。また、少なくとも年2回実施することが必要とされます。

ヘッジの有効性の判定は、ヘッジの開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象とヘッジ手段の変動率がおおむね80%から125%の範囲にあれば、高い相関関係があると認められます。

一般的に、ヘッジ手段の基礎商品の内容とヘッジ対象の重要な内容が同一である場合には、ヘッジ対象の相場変動またはキャッシュフロー変動を、ヘッジ手段が完全に相殺するものであると考えられるために、上記の有効性判定テストは省略することが出来ます。下記の金利スワップの特例処理が使える場合も、この有効性判定テストを省略できる場合であるといえます。

金利スワップの特例処理

資産または負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用される金利スワップが、金利変換の対象となる資産または負債とヘッジ会計の要件を満たしており、かつ、その想定元本、利率、利息の受払日等の条件、契約期間が当該資産または負債とほぼ同一である場合は、金利スワップを時価評価せず、金利の特性の変換としての会計処理を実施することが出来ます。

ここで、金利スワップの想定元本とヘッジ対象となる資産または負債の元本については、いずれかの5%以内の差異であれば、ほぼ同一であると考えて、この特例処理を適用することが出来ます。


その他の金融商品

商品ファンド

商品ファンドへの投資については、短期運用目的のものは売買目的有価証券に準じて、中長期の運用目的のものはその他有価証券に準じて会計処理をすることになります。

ゴルフ会員権

ゴルフ会員権は取得価額で計上します。時価があるものについて、時価が著しく下落している場合、時価を有しないものについて発行会社の財政状態が著しく悪化した場合には、有価証券に準じて減損処理を行います。また、預託保証金については回収可能性を検討し、貸倒引当金を設定します。

現物商品(コモデティ)に係るデリバティブ

現物商品(コモデティ)に係るデリバティブで、差金決済することが予定されているものについては、金融商品会計基準のデリバティブに該当するものとして取扱うことになります。ただし、当初から現物を受渡すことが明らかな場合は、金融商品会計基準の対象外とされます。この場合には、取引の当初から、このような事実を文書化して、当該取引部門の責任者の承認を受けていることが必要とされます。

企業が緊急に対処すべき事項

このような状況下で企業としては次のような課題について緊急に対処する必要があります。

  1. 保有仕組債、デリバティブ、有価証券、その他金融商品の含み損益の洗い上げ
  2. 時価算定できる体制の策定(外部依頼、自社モデル)
  3. 保有仕組債、デリバティブ、有価証券、その他金融商品のリスクの把握
  4. ヘッジについての諸定義と社内規定作成
  5. ヘッジの有効性のテスト方法の策定
  6. リスク管理規定、リスク管理のための内部統制組織、内部統制手続の策定
  7. ヘッジの指定(平成12年4月1日)
  8. 有価証券の分類に関する規定の策定
  9. 有価証券の分類の指定(平成12年4月1日)

また今後、継続的に次のような事項を実施できる体制を作る必要があります。

  1. 保有仕組債、デリバティブ、有価証券、その他金融商品のリスクの継続的把握
  2. 上記1.のリスク軽減手段としてのヘッジの継続的実施
  3. 六ヶ月毎のヘッジ有効性テストの実施とそのためのデータ、システムの整備
  4. 満期保有有価証券に関する制限が守られていることの継続的確認