「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」−日本版ロードマップ−の公表について
2009.06
2009年6月16日、企業会計審議会企画調整部会から、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」(金融庁ホームページ)(以下「中間報告」という)が公表されました。
I.はじめに
中間報告は、2009年2月4日に公表された「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」に対するパブリック・コメントの結果を受けて、2009年6月11日に開催された企業会計審議会企画調整部会の議論に基づきとりまとめられたもので、現時点での我が国企業に対するIFRSの適用についての将来展望を示したものとなっています。公表の背景には、我が国における会計基準のコンバージェンスの進展、それを踏まえた2008年末の欧州委員会(EC)による我が国会計基準がIFRSと同等であるとの最終決定、2005年のEUによるIFRSの採用を契機としたIFRS採用国の拡大並びに米国SECによる米国外企業へのIFRSの適用の容認(任意適用)及び米国企業へのIFRS容認・強制適用のロードマップ案の公表といった昨今の国際財務報告基準(IFRS)*1を巡る状況から、我が国においても今後のコンバージェンスの動向のみならず、IFRS採用に向けたロードマップの作成等のニーズが高まってきたこと*2等があります。
金融庁のウェブサイトにおいて公表されている中間報告の骨子によれば、IFRSの具体的な適用方法は以下のとおりとされています。
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以上を踏まえ、本稿では、この中間報告で示されたわが国における今後のIFRSの取扱いを、「一 会計基準を巡る国際的な動向」、「二 我が国の会計基準のあり方」及び「三 今後の対応に向けて」の中間報告における3つの柱に沿って解説してみたいと思います。
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*1 |
中間報告では、IFRSを「国際会計基準」と総称している。 |
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*2 |
日本経済団体連合会「会計基準の国際的な統一化へのわが国対応」(2008年10月14日)等を参照。 |
II.会計基準を巡る国際的な動向
まず、会計基準を巡る国際的な動向については冒頭でも触れていますが、中間報告において、以下についての解説がなされています。
- 2002年の「ノーウォーク合意」以降のIFRSと米国会計基準のコンバージェンスの進展
- 2008年末のECによる我が国会計基準のIFRSと同等であることの最終決定
(→ 「会計基準の同等性評価に係る欧州委員会の決定について」参照)
- 2005年からのEUによるIFRSの適用(first wave)とその後の世界的な広がり(second wave)
(→ 「国際財務報告基準の動向と今後の日本への影響」参照)
- 米国SECによる米国外企業へのIFRSの適用の容認(任意適用)及び米国企業へのIFRS容認・強制適用のロードマップ案の公表
(→ 「米国企業によるIFRSベースでのファイリングの義務化について検討するためのロードマップ案」参照)
III.我が国の会計基準のあり方
1.コンバージェンスの継続
先般のEUによる同等性評価の決定により、我が国の会計基準及びこれに基づく会計実務が高品質かつ国際的に整合的であることが国際的に認められたといえますが、我が国資本市場の魅力を高め、ひいては経済活力の維持・向上を図っていく観点から、引き続きコンバージェンスの努力を継続していくことが必要であるとしています。
他方で、コンバージェンスを継続・加速化すれば、これまでの会計を巡る実務、商慣行、取引先との関係、さらには会社法との関係及び税務問題など調整を要する様々な問題が出てくることになります。このため、中間報告では、新たに、いわゆる「連結先行」の考え方が示されていることが注目点です。連結先行とは、「連結財務諸表と個別財務諸表の関係を少し緩め、連結財務諸表に係る会計基準については、情報提供機能の強化及び国際的な比較可能性の向上の観点から、我が国固有の商慣行や伝統的な会計実務に関連の深い個別財務諸表に先行して機動的に改訂する考え方」であると説明されています。
連結財務諸表の会計基準には、連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない(「連結財務諸表に関する会計基準」第10項*3 )とする、いわゆる「基準性の原則」があります。したがって、コンバージェンスすれば、連結財務諸表のみならず個別財務諸表にも影響することになりますが、関連諸制度等との結びつきの強い個別財務諸表についてはそれが必ずしも容易にはいかない場面が想定されるわけです。そこで考え出されたのがこの「連結先行」という考え方になります。2008年12月に公表された企業会計基準第21号「企業結合に係る会計基準」等により、取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)における被取得企業の取得原価の算定にあたり、個別財務諸表では従来どおり支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって算定しますが、連結財務諸表では支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって算定することされましたので、この考え方は、現在の基準開発の過程ですでに取り入れられているといえます。したがって、中間報告は、こうした連結先行の考え方を改めて確認したものといえるでしょう。また、この考え方は、事実上の連単分離ではなく連単一致の範囲内での連結先行という趣旨であると思われますが、どの程度連結が先行するのか等、具体的なことは明らかにはされていません。
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*3 |
2008年12月改正前の連結財務諸表原則一般原則二。 |
2.IFRSの適用上の課題と取組み
次に、我が国IFRSの適用に向けた考え方が整理されています。ここでは、各方面からの要望に応える形でIFRSを適用した場合における課題と取組みがまとめられています。IFRSの適用を認めることで、財務報告の品質向上や市場・企業の国際競争力向上がもたらされるようにするためには、以下のような課題があるとしています。
- プリンシプル・ベースのIFRSの会計関係者による教育・研修及び体制整備
- IFRSの基準内容やプロセスに対する我が国からの一層の積極的な意見発信・貢献
- 実務のコンバージェンスや執行面での国際的な協力のための取組み
以上を踏まえ、図表1のとおり、6つの課題に対して、関係者の積極的な取組みが期待されています。
図表1:IFRS導入に向けての課題と取組み
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課題 |
取り組み | ||||||||||||
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IFRSの内容 |
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言語 |
作成者、投資者等のIFRSの理解 |
日本語に適切に翻訳し、IFRS(日本語翻訳版)として広く認知されていること | ||||||||||||
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デュー・プロセス |
IASCFのデュー・プロセスの確保及びそのガバナンスの改善 |
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実務対応・教育・訓練 |
日本の関係者がIFRSを理解し、使いこなすことができること |
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IFRSの設置やガバナンスへの日本の関与の強化 |
会計基準に関する日本の国際的なプレゼンスを強化 |
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XBRL |
IFRSに基づく財務諸表がXBRL形式により開示可能な状況となっていること |
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3.任意適用について
IFRSの任意適用を認める企業については、IFRSに基づき適正な財務報告が作成できるよう、各企業におけるIFRSに基づく具体的な会計実務等の検討・準備が行われ、それについて取組状況の開示が行われているなど、必要な体制整備がされていることを確認する必要があるとされています。具体的な例として、上場企業であり、かつ、IFRSによる財務報告について適切な体制を整備し、IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示しているなどの企業であって、国際的な財務・事業活動を行っている企業の連結財務諸表(及びその上場子会社の連結財務諸表)を対象とすることが考えられるとしています。さらに、IFRSの改訂状況等により、市場において十分周知されている一定規模以上の上場企業等に適用対象を拡げていくか、当局が適切に判断することが適当であるとし、周知性の基準であるところの発行登録制度の利用適格要件(金融商品取引法第5条第4項第2号)を盛り込むことにより対象企業が拡大するかどうは今後の状況次第となっています。
図表2はIFRSの任意適用の内容について日米比較したものですが、我が国では、米国とは異なり、比較可能性よりも、企業によるIFRSによる財務報告を行う体制・能力のほうが重視されていることがわかります。
図表2:IFRS任意適用の日米比較
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日本 |
米国 | ||||||||||
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対象企業 |
継続的に適正な財務諸表が作成・開示されている上場企業であり、かつ、IFRSによる財務報告について適切な体制を整備し、IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示しているなどの企業であって、国際的な財務・事業活動を行っている企業の連結財務諸表(及びその上場子会社等の連結財務諸表) |
各産業の時価総額上位20社の大半がIFRSを使用している産業で、当該20社に入る米国企業 | ||||||||||
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並行開示 |
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適用するIFRS |
IASBが作成したIFRS |
IASBが作成したIFRS | ||||||||||
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時期 |
2010年3月期の年度の財務諸表 |
2010年に提出される財務報告 | ||||||||||
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個別財務諸表 |
適用しない |
開示不要 | ||||||||||
次に、任意適用時における他の我が国会計基準適用企業の財務諸表との比較可能性を高める観点から、一定の我が国の会計基準による財務諸表の並行開示の義務付けについても触れられています。これについては、一定の連続性を確保する観点と作成者の負担・コストの観点の双方に配慮して、導入初年度のみ並行開示(前年度及び当年度財務諸表各1年分)し、その後は、IFRSと我が国会計基準の重要な差異の注記にとどめる、導入初年度の並行開示の旧基準に基づく当年度分に対する監査人の監査は不要とするなど、簡素で有効なものとされるようです。
また、IFRSを適用するといっても、いかなるIFRSであるのかが検討課題になりますが、IFRSの基準設定の状況(デュー・プロセスを含む)の監視を行った上で、任意適用に関しては、基本的にはIASBが作成したIFRSをそのまま適用することになることが見込まれます*4。(強制適用については、後述)。
さらに、任意適用の時期は、2010年3月期の年度の財務諸表からとすることが適当とされています。もっとも、IFRSでは前期との比較情報(comparative information)のほか、完全な一組の財務諸表(a complete set of financial statements)の開示が要求されており(IAS第1号第36項)、2010年3月期からIFRSを適用するとすれば2009年3月期からIFRSを適用*5 することになるため、2010年3月期からIFRSを任意適用する企業は極めて限定されるものと思われます。
個別財務諸表については、少なくとも任意適用の間は、IFRSは適用せず、連結財務諸表のみに適用を認めることが適当としています。ただし、連結財務諸表を作成していない企業については、我が国の会計基準による個別財務諸表に加えて、追加的な情報として監査を受けたIFRSによる個別財務諸表を作成することも認められる方向のようです。
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*4 |
IFRSの正文はあくまでIASBが英語で承認したものとされている(国際財務報告基準に関する趣意書(Preface to International Financial Reporting Standards)第23項)。 |
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*5 |
当該期首時点の財政状態計算書の作成・開示を含む(IAS第1号第10項(f)、IFRS第1号第6項、第21項)。 |
4.強制適用について
強制適用に関しては、諸課題の達成状況や内外の適用状況、IFRSの見直し等の今後の動向を踏まえた上で、IFRSが高品質であって今後の金融経済情勢の下で持続的に適用可能なものであるとして認められるかどうかを見極める必要があるとしています。そのため、様々な考慮要素の状況次第で前後することがあり得ることに留意する必要があるとしながらも、IFRSの強制適用の判断時期については、とりあえず2012年を目途とするとしています。
この際、IFRSを米国のロードマップ案のように段階的に適用するか、比較可能性を重視して一斉に適用するかも、任意適用の状況等を基に作成者の対応能力等を見極めた上で、改めて検討・決定するとしています。仮に段階的にIFRSを適用する場合であっても並存期間は長くても3年程度となるようです。
仮に強制適用となった場合には、実務対応上必要な期間として、少なくとも3年の準備期間が必要とし、仮に2012年に強制適用を判断すれば、2015年又は2016年に適用開始ということになることが明示されています。
また、IFRSの強制適用に当たり、いかなるIFRSを適用するのかが検討課題になります。会計基準に違反すれば法的な制裁も発動され得るという観点から、EUがIFRSの一部を適用除外(カーブ・アウト)しているように、当局がIASBの作成したIFRSの一部について、我が国において「一般に公正妥当と認められる」会計基準とは認められないとして、当該部分の適用を留保せざるを得ない場合も考えられます。このため、当局は、連結財務諸表規則等において、我が国における個々のIFRSの適用を認めるための適切な規定を整備する必要があるとしています。
別記事業については、規制や監督との関係、財務諸表の作成負担などの観点からの別途の検討も必要な旨の言及があります。
強制適用された場合の個別財務諸表の取扱いについては、強制適用の際に、幅広い見地から検討を行う必要があるとしています。その際には、個別財務諸表の開示のあり方が焦点になるようです。また、連結財務諸表を作成していない上場企業の取扱いについては、我が国の会計基準による個別財務諸表の作成を引き続き義務付ける場合においても、追加的に監査を受けたIFRSによる個別財務諸表を作成することが求めることが考えられるとしています。
さらに、非上場企業への強制適用は、とりわけ中小・中堅規模企業はIFRS適用のニーズは低いことから否定する一方、国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の子会社や連結財務諸表を作成する非上場企業及び上場準備企業については、ニーズがあるため任意適用を認めるかどうかが改めて検討される必要があるとし、任意適用の余地を残しています。
図表3は、IFRSの強制適用につき、日米比較したものです。
図表3:IFRS強制適用の日米比較
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日本 |
米国 | ||||||||||||||||||||||||
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判断要素 |
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判断時期 |
前後しうるが、2012年を目途 |
2011年 | ||||||||||||||||||||||||
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導入時期 |
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2014年度から段階的に適用
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対象企業 |
上場企業 |
公開企業 | ||||||||||||||||||||||||
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個別財務諸表 |
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開示不要 | ||||||||||||||||||||||||
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適用するIFRS |
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IASBが作成したIFRS |
IV.今後の対応に向けて
中間報告では、IFRSの適用までの様々な課題について、関係者の協力による適時適切な対応及び我が国会計基準のみならず実務のコンバージェンスの進展が不可欠としています。また、最後に、IFRSを適用する場合であっても、我が国会計基準が無くなることはないとしている点が注目されます。III.で説明したように、任意適用・強制適用のいずれにしても、その対象企業が限定されていることを考えれば、当然の帰結であるといえます。
図表4:今後のスケジュール
V.最後に
日本版ロードマップの公表により、我が国でも、IFRS適用の道筋が明確になってきました。現実に強制適用というフェーズに移るには乗り越えなければならない様々な課題があり、そのときになってみないとわからないといった面も多分にありますが、これを契機として、IFRS適用が今後の我が国企業の経営上の重要な検討課題の一つになることは間違いないといえます。
<参考>
中間報告案からの主な変更点は以下のとおりです。
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あずさ監査法人 品質管理部 |
和久 友子 |
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重田 理枝子 |
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