株式交換制度
1999.12
はじめに
現在日本が克服しなくてはならない課題はいくつかありますが、ビジネスインフラの整備もその一つです。ビジネスインフラとは事業を行う上での社会的生産基盤であり、具体的には金融システム、法制度、会計などがあります。今回は法制度、とりわけ株式交換制度について考えてみたいと思います。
株式交換制度の概要
1999年8月、商法が改正になり、10月より株式交換制度が施行されました。株式交換制度には、株式交換と株式移転の2つの方法があります。
株式交換
ある会社(完全子会社となる会社)の株主が保有する全ての株式を、他の会社(完全親会社となる株式)の株式と交換する方法です。これにより完全(100%)親子会社関係が実現します。親会社となる会社から見た場合、会社の買収を現金の代わりに自社株を発行して行うことができます。
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株式移転
ある会社(完全子会社となる会社)の株主が保有する全ての株式を、新たに設立する会社(完全親会社となる会社)の株式と交換する方法です。完全子会社が複数の場合、これらの会社は兄弟会社となり、事実上合併と同様の効果があります。
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以上のように、企業は株式交換制度を利用することで、より柔軟な組織づくりが容易に可能になりました。
株式交換制度の背景
冒頭にも述べましたが、今回の株式交換制度は、ビジネスインフラとしての法制度改革の一環です。
企業は競争力を維持するために、得意分野であるコアビジネスを一層成長させ、そうでない事業については切り離していくといった、組織を柔軟に改革していくことが常に求められます。しかもそれは迅速にかつ容易にできなくては意味がありません。しかし従来の商法を始めとする企業法制は、それをあまり認めてきませんでした。
この反省に基づき、1997年の独禁法の改正で純粋持株会社が解禁になり、商法改正により合併手続きが簡素化されました。さらに今後の動きとしては商法における会社分割制度(同一会社内の事業等を別の会社に切り分ける手法、合併と反対の効果がある)、法人税法における連結納税制度(従来の個別会社ごとの納税から、連結グループ単位での納税へ)、企業再編に資するための倒産法制の見直しが検討されています。
株式交換制度によって企業はどう変わるのか
では、これら企業法制の改革、特に株式交換制度の導入は企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
1.会社経営からグループ経営への変化
従来の企業経営は何といっても会社単位が中心でした。しかしこれからは法整備により組織を柔軟に変更できることによって、「会社」に対する上位概念としての「資本」の地位がより明確になります。
「会社」に帰属するものはいくつかありますが、その中心は企業風土と人です。現在は同一会社内に複数の事業を抱えているのが普通ですが、事業が異なれば企業風土や給与体系も別にするのが合理的です。このためには「会社」の上に「資本」という上位概念を作り、資本が企業グループを統括する仕組みが求められます。
さらに「資本」の下位概念である「会社」は、企業グループ全体から見てシナジー効果が得られなかったり、収益性が悪い場合は企業グループから切り離していくことも必要となります。
企業がこのような発想で経営スタイルを変化させてきた場合、投資家にとって必要な情報は「会社」単位でなく、「資本=連結グループ」単位に変化します。この動きが前にマネジメントニューズレターで取り上げた「会計ビッグバン」の動きでもあります。
株式交換制度の導入によって、会社は、自社にとって必要な会社の株主の同意(株主総会の特別決議)を得れば、当該会社を比較的容易に自社グループに完全子会社(100%子会社)として抱え込むことが可能になりました(株式交換)。さらに異なる複数の会社が互いにシナジー効果を得るため、持株会社を作ることもできるようになりました(株式移転)。
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2.株主重視の経営
特に資金調達を考えた場合、企業は株主重視の経営をせざるを得ません。株主にとって一番興味のある点は、企業グループまたは企業の価値です。この価値が上昇しない投資は行う意味がありません。
企業価値を高めるためには、収益性、キャッシュフローを良くすることが必要ですが、このためには各事業単位でそれらを高め、さらに連結グループ全体の観点からその事業の意味を検討する必要があります。
そのためには経営の意思決定を迅速に行い、かつ組織の末端までそれを行き渡らせる必要があります。具体的には子会社を少数株主のいない完全子会社(100%子会社)にすることが最も合理的です。
従来であれば、会社を完全子会社にするためには、個別の株主と折衝して株式を買い取るしか方法はありませんでしたが、株式交換制度の導入によって、企業にとって必要な会社を容易に100%子会社とすることができるようになりました。
3.M&Aの一層の促進
事業の成長に加速をつけるためには、自社内で事業をゼロから育てるよりも、既に実績のある会社を買収する方が容易です。しかし従来はこれを行うためには多額の資金を必要としました。またこれを行った場合、キャピタルゲイン課税が売り手の側に発生する場合があります。
今回の株式交換制度では、買収側の会社は現金ではなく自社株を売却側の株主に交付するため資金負担がなくなり、売却側の株主は原則として交換時点では売却益を認識しないため、課税が発生しないというメリットがあります。
株式交換の手続き
株式交換制度に株式交換と株式移転があることは先にも触れましたが、特に株式交換には「簡易株式交換」制度が認められています(商法358条)。
簡易株式交換制度は、完全親会社となる会社にとって株式交換の影響が少ない場合に認められる制度であり、完全親会社となる会社において株主総会の決議を必要としなくなるなど手続きが簡素化されています。しかしここではそれについては省略し、一般の株式交換、株式移転の手続きについて見ていきます。
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(1)株主総会の承認(商法353条、商法365条)
株式交換・移転の承認は株主総会の特別決議(発行済株式総数の過半数を持つ株主を定足数とし出席株主の議決権の2/3以上による多数で決議すること)を要します。
(2)増加資本の限度額(商法357条、商法367条)
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(3)反対株主の株式買取請求権(商法355条、商法371条)
株式交換・移転に反対する株主の保護のため、反対株主には一定の手続きに基づいて「公正な時価」による株式の買取請求権が発生します。
(4)完全親会社の役員任期(商法361条)
株式交換前に完全親会社の取締役及び監査役に就任したものは、株式交換契約書に別段の記載がある場合を除き、株式交換後最初に到来する決算期に関する定時総会の終了時に退任することとなっています。
(5)株式交換比率の算定
株式交換比率については、その算定方法等について新商法に規定はなく、合併比率と同様に解すればよいものと考えられます。
(6)株式交換・移転に関する税務上の特別措置
税法では租税特別措置法により以下の2つの条件を満たすことにより交換、移転による譲渡益課税免除の特例を設けました(交付金銭等がある場合はその部分について課税)。
- 特定親会社による特定子会社株式の受入価額が一定金額以下
- 新株割当比率が95%以上
おわりに
株式交換制度は1999年10月に施行された制度であり、まだこの制度を完全に利用した実例はありません。しかしソニーとソニーミュージックエンタテイメント、ソニーケミカル、ソニー・プレシジョン・テクノロジーの上場子会社3社はこの10月1日、株式交換契約書を締結、調印しました。ソニーのこれら3社に対する持株比率を考えると、株式交換が成立することはほぼ確実です。ソニーが子会社との株式交換を選択した背景には、子会社の外部株主からの介入を避け、グループ全体で迅速な意思決定を行いたいということがあります。このためには3社の完全子会社化が必要でした。
また金融再編にあたり、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の3行が株式移転を利用して、共同で持株会社を設立することを予定しています。
株式交換制度など、企業法制の変革については先にも述べました。これらの諸制度を利用して、現状の組織を生産性の高い組織に再編成することが、企業の生き残りに通じるといえます。
