企業経営に関するトピック解説

2007.12
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企業再編・M&Aにおける退職給付制度について−退職給付制度をめぐる留意点− Page4

II.退職給付デューデリジェンス

1.退職給付デューデリジェンスとは

M&Aのステップとして、まずターゲットとなる企業を選定し、対象会社の概要や意思決定に必要な資料を入手します。必要資料とは、決算書類、会社や事業の概要などが含まれた第一次開示情報です。これを元に買収の意向表明や入札を行います。そしてこれが受理されると買収交渉が本格化します。

買収希望会社は、基本合意書や秘密保持契約を締結して、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、売手企業の同意の下にデータを開示してもらい、法務、税務、人事、財務などの各分野で専門家が調査を行うことをいいます。

財務デューデリジェンスの目的は、財務上の未認識リスクの把握、買収金額決定の基礎情報収集などです。監査法人に所属する年金数理人(アクチュアリー)*2は、財務デューデリジェンスチームの一員として退職給付会計に関する調査を行います。退職給付デューデリジェンスは、財務および人事両面の課題を念頭に調査を行いますので、人事デューデリジェンスを担当するコンサルタントや、法務デューデリジェンスを担当する弁護士と協力することも少なくありません。

*2

年金数理人(アクチュアリー):
生命保険数理、損害保険数理、年金数理などに関わる専門職。保険や年金は確率および統計をもとに成り立つ制度であり、保険料率や掛金率の算定、保険・年金・金融事業運営の結果発生する剰余金(不足金)の検証、配当の適正水準などの決定、保険・年金・金融に関する新商品開発などを担当する。PBOは年金数理の手法を用いて算定されるため、通常、年金数理人やアクチュアリーが数理専門家として利用される。

社団法人日本アクチュアリー会(金融庁所管)が実施する正会員資格試験に全科目合格し正会員として承認された者を「アクチュアリー」と呼ぶ。日本アクチュアリー正会員で一定の年金数理実務経験年数および責任者としての経験年数を満たし、厚生労働大臣の認定を受けた者を「年金数理人」と呼ぶ。年金数理人は社団法人日本年金数理人会(厚生労働省所管)に所属する。



2.退職給付会計の「不確実性」

貸借対照表に表示される退職給付引当金だけでは読み取れない債務があることが一般的です。以下、退職給付債務の変動要素、年金資産の変動要素、PBOに含まれない債務の存在について説明します。

(1)退職給付債務の変動要素

退職給付債務は割引率だけではなく、予定昇給率、予定退職率など、多数の前提を置いた評価額ですから、これらの前提の置き方でPBOが大きく変動する特徴があります。譲渡対象となる事業と全体の年齢構成や職務構成が異なる場合は、単純に人数により均等割りしたPBOに比べ移転されるPBOが大きく変化することになります。年齢構成や職務構成の変化により平均残存勤務年数が短くなれば、割引率引下げを検討せざるを得ない状況も想定されます。

通常PBOは、生命保険会社や信託銀行などに所属する年金数理人(アクチュアリー)に計算委託されます。退職率や昇給率は年金数理人(アクチュアリー)が算定しますが、年金選択率は企業が指定する数値が使用されます。そのため、年金選択率の妥当性に関する検討が行われていないこともあります。なかには「最近は50%ぐらいじゃないか」、といった感覚的な数値がPBOに反映されるケースも皆無とはいえないと思います。このようなケースにおいて、実際はほとんどの人が年金を選んでいたとしたら、実態を反映したPBOは変化することになります。

終身年金を支給する年金制度において古い生命表*3をPBO計算に使用している場合は、最新の生命表に置き換えるだけで、PBOに対して数パーセント程度の影響を与えることもあります。

*3

生命表:
日本国民や厚生年金被保険者などの大きな集団に属する人々の死亡状況を観察して、年齢別に死亡する割合(死亡率)と、それにもとづく死亡・生存の状況を表したものを「生命表」という。

平均寿命や平均余命は、最新の生命表が発表されると新聞等に公表されることが多い。国民生命表は、5年に一度の国勢調査等にもとづき作成され、平成17年国勢調査にもとづく第20回生命表が平成19年3月に発表されている。また、厚生年金基金などに使用される生命表は、平成16年の厚生年金保険法改正後に発表されている。

これらの生命表に記載される年齢別死亡率は、計算基礎率の1つとしてPBO計算に使用する必要がある。生命表が新しくなるほど平均余命が長くなるため、生存を条件に支給される終身年金の場合は、死亡率の変化の影響を受けやすい。


(2)年金資産の変動要素

年金資産の構成内容は、主に市場で取引される株式、公社債などが中心であり、市場環境により大きく変動します。2000年に新退職給付会計基準が導入されて以降、ある年はプラス15%の利回り、ある年はマイナス10%の利回りを記録した結果として、退職給付費用に大きな影響が出てしまったという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

グループで運営する年金制度から別の年金制度へ権利義務を移転する場合は、責任準備金、数理債務、最低積立基準額など、年金制度の債務比により資産を分割・移管しますが、どの方法を選択するかによって移管される年金資産額は変化します。

以上のように、PBOと年金資産は変動しやすいという性質を持っています。

仮に、ある時点のPBOと年金資産が同額の200億円であり、退職給付引当金が財務諸表上ゼロだとしても、諸数値の前提条件や測定日が変化すれば、200億のPBOが210億に変化する可能性があり、200億だと思っていた年金資産が190億円になってしまうこともあります。残高ゼロだと思っていた退職給付引当金が一挙に20億円になってしまうこともあります。

(3)退職給付債務に反映されていない制度

(i)

早期退職優遇制度、転進促進等の加算金制度

 

退職給付会計導入当初は、恒常的な発生が見込まれないということでPBOの対象外であった制度が、実態をよく調べてみると、毎年恒常的に、一定の年齢や勤続年数に応じて加算金等が支給されており、見積り計算が可能だったというケースもあります。

同様に、期間を限定した早期退職加算金制度のためPBO対象外になっているとしても、今後のリストラ計画により、支払うべき割増退職金などが明確な場合などは、M&Aの検討にあたってPBOと別枠で債務認識しておくことが必要です。

(ii)

総合型厚生年金基金

 

同じ業界や同じ地域の企業が共同して設立する総合型厚生年金基金に加入している場合は、合理的に年金資産が配分できないものとしてPBOの対象外となっていることが多いと思います。合併後の退職給付統合の一環として基金を脱退する場合には、退職給付引当金に認識されていない、脱退時の一括拠出金が発生する場合があります。

(iii)

簡便法適用

 

簡便法適用制度など、原則的なPBO計算を行っていない制度も、合併等により人員規模が増加する可能性もあります。その場合は、原則法への変更によりPBOを変動させる可能性があります。

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