新退職給付会計
1999.10
退職金制度と企業年金制度
1.日本の退職金制度
退職金には、従業員の企業への貢献度に応じた功労報奨として支払われる対価(功労報奨説)、従業員の賃金の一部の後払い(後払い賃金説)、従業員の低賃金の補正として退職後の生活補償のために支払われるもの(生活保障説)、と3つの考え方があります。現在ではこれらの性格を併せ持つ制度と考えられています。
退職金は、通常、労働協約または就業規則による退職金規定で会社毎に内容が決められています。退職金の支給額を計算する要素は基本的には次の3つです。
- 基本給
- 勤続年数別支給率
- 退職事由別支給率
日本の退職金の特徴としては、一般的に「勤続年数別支給率」が勤続年数で20数年目以降に高く設定しているケースが多いこと、定年退職者には、退職金の上積み規定のある会社が相当数あることがあげられます。
2.企業年金制度
日本の企業年金としては、適格退職年金が昭和37年に、また、厚生年金基金は昭和41年に導入されました。両制度ともに払い込み掛金が税務上損金になるという税制上のメリットがあり、大企業を中心に普及は急速に進んでいます。
現在の日本における年金制度体系を図示しますと下図のとおりです。
また、適格退職年金と厚生年金基金の制度概要は次のとおりです。
企業年金制度の概要
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現行の退職給付の会計処理
退職給付に関する現行の会計処理は、内部積立は退職給与引当金で、外部積立は掛け金拠出時の費用処理以外はオフバランスでそれぞれ別個に行われていました。
退職給与引当金については、昭和43年11月11日付大蔵省企業会計審議会報告の「企業会計上の個別問題に関する意見第二 退職給与引当金の設定について」(以下「個別意見書」という)という意見書を中心にその会計処理の基本的考え方を明らかにしています。実務上は相当数の会社が税法上平成9年度まで原則として損金算入限度額としていた退職金の期末自己都合要支給額の40%をもって退職給与引当金の貸借対照表の残高として処理していました。また、保守的な会社では自己都合要支給額や会社都合要支給額の40%以上を引き当てている会社もあります。
一方、外部積立である企業年金の会計処理は個別意見書の公表が企業年金の導入後間もない時期だったので、明確な基準を示さずにいました。これも実務上は税法の規定に会計が実質的に追随してきた格好となっています。つまり企業年金の拠出金を支払い時に税務上全額損金算入できるということで会計上も同額を費用処理する会計処理を採用しているのが一般的です。
新退職給付会計基準の概要
1.はじめに
近年、年金資産の運用利回りの低下、資産の含み損等により、将来の年金給付に必要な財源が確保されているかどうかが企業年金について問題となっています。
年金資産の積立不足は、将来的には企業の人件費の負担増加として財政状態を悪化させるおそれがあり、企業年金に係る情報は現在の我が国の経済情勢から考えて、投資情報や企業経営の視点から重要性が高まっています。
こうした状況を踏まえて、従来の退職金・企業年金の会計処理を再検討し、会計処理及びディスクロージャーについて国際的にも通用する新退職給付会計基準を「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「意見書」という)として平成10年6月に企業会計審議会が公表しました。
2.基本的考え方
(1)退職給付の定義
意見書では、退職給付とは一定期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付と定義して会計処理の取扱いを示しています。これは、退職給付の支給方法(一時金支給、年金支給)や退職給付の積立方法(内部引当、外部引当)の違いにより会計処理も異なっている現行の退職給付会計を包括的に一本化するための概念定義といえます。
(2)退職給付の性格
意見書では、退職給付の性格に関しては基本的に「賃金後払い」の考え方になっています。つまり、退職給付は基本的に勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生するものと考えています。
この観点から、退職給付についても会計上の引当金の要件である「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合」に該当することになります。そのため、退職給付は適正な期間損益の算定上、その発生した期間に費用として認識することが必要となります。
なお、役員の退職慰労金については、労働の対価との関係が必ずしも明確ではないということから、新会計基準では直接対象とはしていません。
(3)企業年金制度の取扱い
意見書では、確定給付型企業年金を前提にして会計処理を示しています。その中で、厚生年金基金制度の代行部分や従業員からの拠出部分の取扱いについては、資産の一体運用及び年金の一括給付から区分計算が難しいこと、母体企業の関与度合が高く、発生した過去勤務債務等は通常、全額を母体企業が負担している場合が多いことなどの経済実態からみて、企業会計においては、それぞれの部分を区分せずに全体として一つの退職給付制度とみなして、同一の会計処理を適用することとしました。
なお、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない外部拠出型の制度(現行での中小企業退職金共済制度や在外子会社で採用している例のある確定拠出型企業年金制度等)は、基本的に要拠出額をもって費用処理するのが適当と意見書では考えています。
3.会計基準のポイント
(1)会計処理
将来の退職給付のうち当期の負担に属する額を当期費用として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部に計上します。
この負債の計上にあたっては、企業年金制度の年金資産を差し引き、また、退職給付費用の計算上は、年金資産の期待運用収益を差し引く処理をします。
さらに、退職給付水準の改訂及び退職給付の見積りの基礎となる計算要素の変更等により生じる過去勤務債務及び数理計算上の差異は、原則として負債の計上にあたって差し引き、一定期間で規則的に費用処理します。
(2)退職給付費用の考え方
毎期の退職給付費用は、退職時に見込まれる退職給付の総額について合理的な方法により各期の発生額を見積り、これを一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く方法で算出します。従って、税務上の退職金の期末自己都合要支給額をベースとした算定方法と異なる考え方を採用しています。
この退職給付費用の特徴としては、次のような点があげられます。
- 現在時点の退職給付の支払額ではなく、退職時に見込まれる退職給付の額に焦点をあてて対象給付費用を計算すること
- 各期の退職給付の発生額を見積る方法としては、原則として勤務期間を基準とすること
- 退職給付は実際の支出までに相当の期間があることから、現在価値額に割り引く現価方式を原則とすること
- 退職給付費用は、a.勤務費用 b.利息費用 c.期待運用収益 d.過去勤務債務の費用処理額 e.数理計算上の差異の費用 処理額を構成要素とすること
(3)過去勤務債務及び数理計算上の差異
退職給付債務が長期的な見積計算であるという観点から、数理計算上の差異の取扱いについては重要性基準の考え方を採用しています。なお、基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じた場合において生じる数理計算上の差異は過去勤務債務と同じく、平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとなっています。
過去勤務債務及び数理計算上の差異のうち未認識部分は、会計上オフバランスとし、注記で開示されます。
(4)年金資産
企業年金制度の年金資産は退職給付の支払いのためのみに使用されることが制度的に担保されていることから、企業の貸借対照表には計上されません。しかし年金資産は、退職給付における負債の計上にあたって差し引くものですから、期末において公正な評価額で測定することが求められています。
また、年金財政計算による掛金の拠出額が会計上の退職給付費用の額を超えるときは、その超過拠出された掛金相当部分は、経過的に前払費用として貸借対照表に計上されることになりました。
(5)小規模企業等における簡便法
従業員数が比較的少ない小規模企業等では、合理的な数理計算上の見積りを行うことが困難である場合や退職給付の重要性が乏しい場合が考えられます。従って、簡便な方法を用いて退職給付費用を計算することも認められています。
(6)開示
貸借対照表上退職給付に係る負債の計上は、従来の退職給与引当金の科目に代えて、原則として退職給付引当金の科目で表示されます。
また、新たな退職給付制度の採用又は給付水準の重要な改訂により発生する過去勤務債務を発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額に重要性があれば、これを特別損失として表示することも認められています。
注記事項としては、財務諸表の有用性をさらに高める観点から、次の事項を注記するように求めています。
1. 企業の採用する退職給付制度
2. 退職給付債務等の内容
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a. |
退職給付債務及びその内訳
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b. |
退職給付費用の内訳
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c. |
退職給付債務等の計算基礎
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(7)実施時期等
新会計基準は、平成12年4月1日以後開始される事業年度から適用されます。
なお、当該事業年度から直ちに新会計基準に基づく会計処理の適用が困難と認められる会社については、平成13年4月1日以後開始される事業年度からの適用も認められています。この場合、新会計基準に基づく退職給付債務及びその内訳等について注記することとなります。
また、新会計基準の採用により生じる影響額は、通常の会計処理とは区分して、15年以内の一定の年数の按分額を当該年数にわたって費用として処理することとなります。
海外の企業年金の会計基準
今回の新退職給付会計基準の制定により、退職給付に関する日本の会計基準と国際会計基準、米国会計基準との違いはほとんどなくなったといえます。ただ、費用の償却方法等に一部違いが見られるため、ここで国際会計基準と米国会計基準の会計基準の内容について、(1)退職給付債務の認識基準、(2)過去勤務債務等の償却方法、(3)資産・負債の計上方法、(4)基礎率の設定方法の順に整理したいと思います。
1. 国際会計基準
国際会計基準(IAS)では改訂IAS19号で退職給付について以下のように規定しています。
(1)退職給付債務の認識基準
退職給付債務の認識基準は発生主義、年金数理計算方式については発生給付評価方式を採用しています。これらは新日本基準と同じ考え方です。
(2)過去勤務債務等の償却方法
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1. |
過去勤務債務 |
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2. |
数理計算上の差異 |
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3. |
会計基準移行時差額 |
(3)資産・負債の計上方法
退職給付債務から未認識の数理計算上の差異等を加減したものから、制度資産(年金資産)の公正価額を控除した額を退職給付負債として貸借対照表に計上します。その額がマイナスの場合は、新日本基準と同様に前払年金費用とします。ただし、資産として認識できるのは未認識の数理計算上の差異等までの額となります。また、後述する米国会計基準のような追加最小負債の概念はありません。
(4)基礎率の設定方法
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1. |
割引率
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2. |
制度資産運用収益率
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2.米国会計基準
米国会計基準ではFASB(財務会計基準審議会)87号で退職給付について以下のように規定しています。
(1)退職給付債務の認識基準
退職給付債務の認識基準は発生主義、年金数理計算方式については発生給付評価方式を採用しています。これらは新日本基準、国際会計基準と同じ考え方です。
(2)過去勤務債務等の償却方法
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1. |
過去勤務債務
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2. |
数理計算上の差異
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3. |
会計基準移行時差額
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(3)資産・負債の計上方法
退職給付債務から未認識の数理計算上の差異等を加減したものから、制度資産(年金資産)の公正価額を控除した額を退職給付負債として貸借対照表に計上します。その額がマイナスの場合は、前払年金費用とします。また、累積給付債務が制度資産の公正価額を超えるときは、追加最小負債を計上する必要があります。これは、新日本基準、国際会計基準では採用されていない考え方です。
(4)基礎率の設定方法
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1. |
割引率
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2. |
制度資産運用収益率
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退職給付会計に関する実務指針(中間報告)のポイント
1.退職給付信託の取扱い
退職給付の支払いのみのために使用され、かつ時価の算定が客観的かつ容易で換金性の高い資産等の一定の要件を満たした資産を退職給付信託とした場合には、新会計基準上は年金資産と同様の取扱いが行われます。
2.割引率の変更の要否
退職給付債務が前期末に用いた割引率により算定したものと比較して10%以上変動すると推定される場合には、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければなりません。
3.簡便法の取扱い
原則として簡便法を適用できる小規模企業等とは、従業員数が300人未満の企業をいいます。なお、従業員数が300人以上の企業であっても年齢や勤続年数に偏りがあるなどにより、数理計算の結果に一定の信頼性が得られないと判断される場合には簡便法によることもできます。
また、簡便法から原則法への変更は認められますが、原則法から簡便法への変更は原則として認められません。
4.複数事業主制度に係る計算手法
年金資産等の計算を行うときの合理的な基準としては、退職給付債務の比率の他に、以下に例示する額についての制度全体に占める各事業主に係る比率によるものとなります。
- 年金財政計算における数理債務から年金財政計算における未償却過去勤務債務を控除した額
- 年金財政計算における数理債務の額
- 掛金累計額
なお、総合設立の厚生年金基金であっても、複数事業主間において類似した退職給付制度を有しているなどの場合は、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算する必要があります。
5.厚生年金基金の代行部分の取扱い
いろいろ議論のありました厚生年金基金の代行部分は退職給付会計基準で定める退職給付の対象に含めることで最終的に決定されました。
