あずさ監査法人

会計ビッグバン

1998.12

我が国企業会計の急速なグローバル化と企業経営への影響


日本企業の事業の国際化とともに、その利害関係者は世界中にかつ多様に存在するようになり、また、証券市場のグローバル化と相俟って、企業のディスクロージャーはグローバルスタンダードに拠ることを求められてきています。この流れは、我が国の制度会計においても歴史的な転換を迫るものとなります。また、それは、会計分野のみの変更に止まらず、企業経営そのものの姿勢を問い直すことともなろうかと予測されます。

今回は、「会計ビッグバン」の内容を「時価主義会計」と「連結会計」という2つの焦点から掘り下げ、企業がこれらの変化にどのように対処していき、グローバル競争に勝ち抜くための経営の変革をいかに行い得るかを考えてみたいと思います。


1. 「会計ビッグバン」とは何か

会計ビッグバンの根幹は、国際会計基準(IAS:International Accounting Standards)の動きとそれに対する日本の企業会計の対応です。国際会計基準は本年年末までにその主要な基準が出そろい、1999年秋以降の国際的な資金調達においては、本格的な国際会計基準の適用が始まると言われています。これに対する我が国の対応は、大蔵大臣の諮問機関である企業会計審議会において審議され、その基本方針は、2つの基準の併存、すなわちダブルスタンダードを避け、国際会計基準の趣旨を可能な限り日本の企業会計制度に取り込むというものです。また、日本公認会計士協会も国際会計基準の全面導入の提言を行っています。さらに、国際会計基準委員会エネボルドセン議長は、東京証券取引所及び大蔵省に対して外国企業が日本で上場する際に、国際会計基準の使用を認めるよう働きかけています。このような統一グローバル基準である国際会計基準を全面採用することは、企業間の“比較可能性”を保持する上で、地球的規模において極めて重要な意義があります。それは、今回の“会計ビッグバン”が、単なる“会計の比較”ではなく、“経営の比較”をより一層明確にすることとなり、その影響は財務、経理の分野にとどまらず、企業経営そのものに重大なインパクトを与えることを意味しているからです。

パラダイムのシフト

企業会計の急速なグローバル化の中で、3つのパラダイム(枠組み)のシフトが起こっています。 第一は、単独決算から連結決算重視への動きです。日本企業は従来、商法に基づく単年度の配当可能利益算定、課税所得の算定を背景にした単独決算中心の開示を行ってきました。資金調達や株価も単独決算の開示に左右されていたところがありますが、今後、以下のように、連結決算を主とした開示が要求されます。

  1. 連結ベースでの概況、業績等の開示
  2. 連結キャッシュフロー計算書の開示
  3. 中間連結財務諸表の開示
  4. 連結ベースでの臨時報告書の提出

また、連結等の範囲については、形式的持株基準から、実質的支配力、影響力基準が導入され、40%以上実質的所有子会社の連結、15%以上実質的所有の子会社以外の会社への持分法適用が義務づけられます。尚、40%あるいは15%の議決権の所有比率の判定に際しては、自己の計算において所有する株式の議決権のみならず、自己と出資、人事等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権を合わせて勘案することが定められており、連結の範囲が直接の資本関係や人事、財務の関係を超えて拡大されていることに留意する必要があります。さらに、連結会社間での会計方針の統一、連結上の偶発債務の開示も強制されます。

この結果、企業として、連結対象会社の特定、連結情報作成のための体制整備を通じて、連結ベース、事業部ベースの経営管理体制の確立が急務となります。

第二のパラダイムシフトは、取得原価主義から時価主義への移行です。貸借対照表は企業の財政状態を表わすものであり、資産は将来の収益稼得能力を、負債は企業の将来の返済・支払義務を表わすものとされています。これまでの日本の会計においては、その将来収益稼得能力、将来返済支払義務は、取得原価で表わされてきましたが、企業価値を重視する最近の世界的傾向は、資産及び負債は可能なかぎり時価で評価すべきだとの論調を強めてきました。

時価とは、その資産負債に内在する将来キャッシュフローの現在価値であるとされ、それは、一定時点の価格ではなく、時間概念を伴った価格、すなわち時間価値とでもいうべきものです。長期の営業債権も、長期の借入金もそれぞれの回収時点、返済時点の金額を現在価値に置き換えたものが時価となるわけです。たな卸資産、固定資産、引当金等以外で、このような時価を有するものは、我が国においても金融商品として分類され時価評価の対象となります。従来、引当金として計上されてきた退職給与については、年金債務の時価評価により企業の巨額な隠れ債務が顕在化することとなり、既に各企業の頭痛の種になっています。また、投資不動産に対する減損会計の導入も国際会計基準では本年中にその案が提出され、時価が取得原価を下回っているものについては、その評価減が必要となる見込みです。

時価主義の導入による影響は、現在・将来のキャッシュフローの重視、本来事業に直接影響のない非営業資産の適切な管理、持ち合い株式の見直し、資本構成の最適化(「求められる変革・・・株主重視の経営」および「キャッシュフロー重視の経営を通じての株主価値の向上」参照)等の経営方針の推進を余儀なくされるものと思われます。

第三のパラダイムシフトは、連結ベースのキャッシュフロー計算書の基本財務諸表への組み込みであります。上記で述べた時価主義会計への移行において、時価を将来キャッシュフローの現在価値であるとする考え方に鑑みれば、各事業年度のキャッシュフローを示すキャッシュフロー計算書が、貸借対照表や損益計算書と同様にその重要性を増して来るのは当然と言えましょう。キャッシュフロー計算書は、営業、投資及び財務の各キャッシュフローから構成されますが、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローは、EVA(Economic Value Added)の計算、一株当たりの期待配当にも大きく影響を与える指標でもあります。キャッシュフローを重視するキャッシュフロー経営の考え方、仕組みの構築が日本企業にとっても急務となってくるでしょう。



主な改正の実施時期


●:年度決算への適用開始 ○:中間決算への適用開始

項目

2000/3期

2000/9中間期

2001/3期

2001/9中間期

2002/3期

新・連結制度

(本格実施)

*1


キャッシュフロー
計算書



会計商品の
時価会計

流動有価証券デリバティブ取引



その他有価証券

*2

*2



退職給付会計

*3

*3

税効果会計



研究開発費等



*1 銀行等の金融機関には、1999年3月期より早期適応される予定
*2 帳簿価額と時価との差額について税効果を適用した場合の注記が必要
*3 一定の注記を行うことにより、1年の適用延期が可能


2.時価主義会計の流れと影響

日本の企業会計に時価主義会計が導入される

我が国の企業会計は、従来より財務諸表項目の測定基準として取得原価主義を採用しており、部分的に、保守主義の原則の下で時価の採用を認めているにすぎません。取得原価主義の会計では、購入した株式の時価が下落または上昇しても、実際に売却するまでは、その株式は貸借対照表上、購入価額で評価されることになり、含み損益が損益計算書に現れることはありません。そのため、利益が苦しいときには、時価の上がった株式だけを売却し、含み損を抱えた株式はそのまま保有することで利益を調整することができました。また、ヘッジを目的としない先物取引やオプション取引のようなデリバティブ取引も、決済されるまでは、貸借対照表にも、また損益計算書にも現れることがありませんでした。取得原価と時価に大きな乖離が存在し、多額の含み損あるいは含み益を抱えているにも関わらず、それが、財務諸表に現れないのでは、財務諸表が、企業の本来の能力、価値を示しているとは言えず、このことが企業会計に時価主義の導入を求める根源的理由となりました。企業の本来の能力あるいは価値は、時価によって評価する必要があるという考え方です。国際会計基準が、時価主義会計を採用しているのもこうした理由によるものです。

我が国においても、こうした状況を踏まえ、企業会計審議会が、平成10年6月16日付けで「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」及び「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」を公表し、日本の会計基準に時価主義会計を採用するという方向を示しています。退職給付の会計処理における、時価主義は、退職給付という債務を現在価値(図1)で評価するという意味です。

(図1)現在価値とは3年後100百万円を受取ることになっているが、今受取るとしたらいくらになるか。運用利回り(割引率)を年5%としますと、以下のように86.4百万円を受取れば、3年後には、100百万円になっていることになります。




つまり、3年後の100百万円の現在価値は、86.4百万円ということを示しています。なお、このことは、3年後に100百万円を支払うためには、今86.4百万円を準備しておく必要があるということを意味することにもなります。また、運用利回り(割引率)が低いと現在価値は大きくなるということも覚えておいて下さい。

以下、「退職給付」及び「金融商品」の新会計基準のポイントを見ることにより、それが企業経営にどのような影響をもたらすかを考えてみました。

退職給付に係る新企業会計基準のポイント

日本の企業の多くは、企業年金については、掛金をその期の費用として処理し、退職一時金については、税法基準に従って、自己都合退職要支給額の40%を引当て計上しています。しかしながら、近年、年金の積立資産の運用利回りの低下、資産の含み損等により、将来の年金給付に必要な資産の確保に懸念が生じており、このことが、将来の掛金を増大させ、財政状態を悪化させる恐れがあります。従来の基準では、期末日現在の給与水準によって退職金債務が計上されていましたが、新基準では将来の退職時の予想給与水準によって計上されるため、通常、かなり多額の積み立て不足が生じます。つまり、現在の掛金を費用処理する方法では、企業が抱えている実質的な年金債務が貸借対照表に表示されないままになるということです。一方、税務上は、自己都合要支給額の40%の引当のベースが今後順次引き下げられ、20%とすることが発表されており、税務上の引当基準が本来の債務を計上しているとはますます言えなくなってきました。定年退職者が多い企業にあっては、期末自己都合退職要支給額の100%を引当てていても十分とは言えないかもしれません。

新企業会計基準では、国際会計基準と同様、退職一時金と企業年金を区別することなく、退職時に見込まれる退職給付の総額を、各期の発生額として按分し、当期末までの分を、一定の割引率に基づき現在価値に割り引き、当期末の退職給付に係る債務として認識します。さらに、この債務から、外部に積立てられている年金資産の時価(取得原価でないことに注意)を差引いた額を退職給付債務として、貸借対照表上に計上することになります(図2参照)。つまり、当期末までの従業員の働き分に対する将来の退職給付額のために、いくら準備しておかなければならないか、そのうち年金資産としていくら準備できているかということを表わす会計です。

(図2)退職給付債務の考え方


この新しい退職給付に係る会計制度への対応によって、企業間格差が広がることは避けられないものと予想されます。引当不足を解消するためには、追加の掛金が必要になるでしょうし、運用成績の悪い年金委託会社との取引を見直す必要も生じてきます。退職一時金制度のみの会社にあっては、今まで以上の費用計上が必要になることを覚悟しなければなりません。

また現在、確定拠出型年金が話題を呼んでいます。これは、企業が従業員のために毎期一定の年金掛金の負担をし、そのあとの年金資産の運用は各従業員の責任に任せてしまうというものです。つまり、企業は、掛金として支払った以上の責任は負わず、企業の負担額は、各期の費用計上時に確定することになります。一方、従業員は、退職時、今までのように確定した年金額を受取るのではなく、運用利回り次第で金額が変動することになります。これにより、企業は、将来の年金負担が年金資産の運用状況に左右されないため、より安定した経営ができるというわけです。しかし、従業員にとっては、将来の年金受取額が保証されるわけではないため、不安感が残ることになります。優秀な人材を確保するためには、運用成績の良い商品、年金制度を紹介する必要があります。

金融商品に係る新企業会計基準のポイント

金融商品という言葉で、有価証券だけをイメージされる方は多いことと思います。あるいは、先物取引やオプション取引のようなデリバティブ取引も含めて考えられる方もおられるでしょう。しかし、ここで言う金融商品とは、現金預金、受取手形あるいは借入金のような負債も含めたもので、たな卸資産、有形固定資産、無形固定資産、各種引当金、資本の部を除いた全ての貸借対照表科目及びデリバティブ取引と考えていただく必要があります。これらの資産、負債及びデリバティブ取引を、時価あるいは現在価値で評価しようというのが、新しい会計基準です。

但し、受取手形、売掛金あるいは借入金のように市場性に乏しいとか、社債のように市場性があっても、市場価格での精算に業務遂行上等の制約があるため、債権額あるいは債務額をもって貸借対照表価額とすることにされている科目など、結果として現状と変わらないものもあります。現状と大きく変わるものとして、具体的には、(1)市場性のある有価証券の時価評価、(2)不良債権の現在価値による評価、(3)デリバティブ取引の貸借対照表への計上及び時価評価があります(図3参照)。

(図3)金融商品の時価評価導入で変わる点

(1)市場性のある有価証券の時価評価

保有目的

賃借対照表上
の区分

評価差額の処理

売却目的

流動資産

全て損益に計上

その他の目的
(例えば持合い)

投資その他

評価益

資本の部に計上

評価損

資本の部に計上、但し損益として
処理することも認められる。


(2)不良債権の現在価値による評価

例えば、貸付金の金利を5%から0%に減免した場合、貸付金の計上額を引き下げて損失を計上する。


それぞれの現在価値は

それぞれの現在価値は



(3)デリバティブ取引の貸借対照表への計上及び時価評価


金融商品に時価主義が取り入れられた場合、資産・負債の状況あるいは損益の状況は、今までと大きく異なることになります。含み益のある株式を保有していれば、それが顕在化し、資本を押し上げ、結果として、ROEを引き下げることになります。これまでは、利益が苦しくなった時(ROEが下がりそうな時)に、含み益のある株式を売却して利益を捻出し、ROEを確保することができましたが、それができなくなります。そのため、株価は下落するかもしれません。また、ROEの低下を避けるためには、持ち合いを解消していくことも考えなければなりません。株価の下落は、資本コストを上昇させることにもつながります。更に、不良債権やデリバティブ取引についても、今まで以上に、早期に損失が顕在化するため、リスク管理をより慎重に行う必要があります。金融商品の時価主義会計についても、その対応により企業間格差が広がることになりかねません。

以上のように、時価主義会計においては、企業の価値あるいは能力を、時価すなわちキャッシュフローの概念で捉えています。投資家は、企業が得る将来のキャッシュフローこそが、企業の価値であると考えるわけです。「現金は事実、利益は見解の問題である」という言葉が示すように、キャッシュは、ごまかしようがありません。この事実を、できるだけ会計に取り込もうとしているのが、時価主義会計なのです。含み益経営からの決別が迫られているのです。



3.連結経営の流れと影響


西暦2000年。多くの日本企業において、今世紀最後の決算を迎えるに当り、キャッシュフロー計算書の開示、税効果会計の適用等、ディスクロージャー面で非常に大きな変更が行われます。その中でも有価証券報告書の主たる財務諸表が個別財務諸表から連結財務諸表へ転換することが、その最大の変更点であると言えるでしょう。なぜなら、この変更により、我が国の制度上でも漸くグループ経営の重要性が、認知されることになるからです。

経営環境の変化−グローバル化の進展

日本企業は、これまで安い労働力を求め東南アジア諸国に生産拠点を移したり、また、高い技術力と高度な品質を背景に、欧米市場にも自社製品を販売する等、急速にビジネスの海外展開を推進してきました。しかし、この結果、経営管理上は少なくとも以下の3つの課題が発生したと考えられます。

(1) 経営情報の入手の困難性

日本企業の多くは、海外事業展開をする際に、情報システムの選定、会計ルールの採用、その他経営管理の仕組みの構築を海外子会社に全て委ねる方法を採りました。この結果多くの場合、各グループ企業は、親会社と違うシステム、違う勘定科目体系を採用しており、親会社からの情報提供要求に対し、対応に多大な時間が掛かっています。

(2) ビジネスリスクの増大

ビジネスの海外展開は、為替リスク、カントリーリスク等のビジネス・リスクを孕んでいます。例えば、昨年に起きたアジア通貨の下落により、アジア通貨で保有されていた資産の価値は、一瞬の内に目減りしてしまいました。このように増大してしまったビジネス・リスクの管理が、経営管理上の大きな問題となってきました。

(3) 利害関係者のグローバル化

3番目の影響は、利害関係者のグローバル化です。この内、最も影響を与えているのが、外国人投資家の増大であると言えます。外国人投資家は日本のもの言わぬ投資家と違い、自分が投資した資本が適切にビジネスに投下され、リターンとなって還元されることを期待しています。しかし、これが、むしろ投資家の本来の姿であり、日本企業も外国人投資家の増大により、経営のグローバル・スタンダード化を意識せざるを得なくなっています。

グループ経営管理体制の整備

このような環境変化に対し、我が国では従来から経営管理は各企業単体ベースで考えられてきており、大企業の中にもグループ経営管理体制が十分に整備されていない企業が、まだまだ多いのが現状です。

それでは、グループ経営管理体制とは何を意味するのでしょうか。実はグループ経営管理においても、単体企業の経営管理と同様、「Plan→Do→Check→Action」というマネジメント・サイクルが基本となります。但し、グループ経営管理の場合、「Do」の部分は、グループに属する各企業が担っており、「Plan」と「Check→Action」の部分が本社機能の中心となります。

(1)「Plan」機能の確立

「Plan」機能では、グループ全体のビジョン・戦略を明示し、各グループ企業が課された役割を果たせるよう「ヒト」「モノ」「カネ」の経営資源を効率的に配分します。

  1. グループ・ビジョン、戦略の立案
    我が国では、親会社が本社機能を共に担当してきた経緯があり、グループ経営管理と親会社単体の経営管理が混同されているケースが多いようです。しかし、各グループ企業は、それぞれ業務機能も異なれば、管理ニーズも異なるため、親会社単体のビジョンや戦略を押しつけるのではなく、企業グループ全体のグループ・ビジョン、戦略の設定が必要です。

  2. ビジョン、戦略達成のための具体的なアクション・プランの立案
    グループ・ビジョン、戦略の実行者はあくまで各グループ企業です。従ってグループ・ビジョン、戦略は、グループ各企業のビジョン、戦略に反映され、アクション・プランが作成されなければなりません。

  3. 業績評価基準、目標値の設定
    グループ・ビジョン、戦略を正確にグループ企業の末端まで伝達し、達成してもらうためのツールとして業績評価制度があります。人は自分が評価される基準に合わせて行動します。業績評価基準ないしは目標値を、達成すべきグループ・ビジョン、戦略に合わせて、適切に設定することによって、グループに属する組織・人の行動を正しい方向に導くことができます。また一方では、利害関係者のグローバル化により、業績評価基準の設定上も株主を意識することが必要になりました。株主は、自らが投資した資本が如何に効率よくリターンの獲得に使われたかに関心を持っています。従って、ROE、ROI、ROAといった資本と利益を比較した指標が必要となります。また、米国で最も株価と連動しているといわれているキャッシュフローも株主にとって必要な指標となります。

(2)「Check→Action」機能の確立

また、「Check→Action」では、各グループ企業が実行した経営成果をグループ全体、並びに、戦略事業単位(基本的経営機能、製品別、地域別等)で把握、評価し、次期の「Plan」へのフィードバックが行われます。

  1. グループ各社から業績情報(実績財務諸表等)を入手する仕組みの構築
    経営者が各グループ企業に発生した問題やビジネス機会に迅速に対処したり、ビジネスのグローバル展開によって増大したビジネス・リスクを適切に管理するためには、各グループ会社の情報を適時に入手することが必要です。また、そのためにはグループ経営管理システムの構築が不可欠です(システム構築については後述します)。

  2. 業績情報を集計し、各種の評価指標(実績)の報告体制・手続の整備
    グループ企業の実績情報は、各業績指標が目標値と比較され、経営者・管理者に対し、一定の会議において報告される必要があります。また、発生した問題点についての対策は、その場で検討できる体制・手続の整備も必要です。

グループ経営管理システムの構築

近年、ERPソフトとPAAソフトという2つのタイプの経営管理用パッケージソフトが、グローバル・ベースで供給されるようになり、海外グループ企業からの情報入手に課題を持つ日本企業に光明がさしてきました。ERPソフトとPAAソフトは、日本語、英語、その他の主要国語にも対応済みであり、これらのソフトを活用することによって、グローバル展開した各グループ企業の情報の収集が可能となるからです。

ERP(Enterprise Resource Planning)ソフトは、会計、物流、人事、製造、財務管理、在庫管理、販売管理といった企業の様々な業務プロセス活動の業務効率を向上させることを意図して開発されたソフトウェアであり、個々の取引データが、共通のデータベースに保存される仕組みとなっています。SAP R3、Baan、Oracle Applications、People Soft、JDEdwards One Worldなどがその代表例です。

また、PAA(Packaged Analytic Application)ソフトは、主として基幹システムよりデータを取り込み、これらのデータを使用して、経営管理に必要な分析を自動的に行ったり、帳票を作成するソフトウェアです。従って、その多くが基幹システムとのインターフェース構築及び帳票作成が容易で、ドリルダウン等の多彩な分析ができることを特徴としています。ハイペリオンソリューションズ社のHyperion Enterprise等はその代表例です。

これら2種類のソフトのどちらを選定するかについては、企業グループの形態が一つの判断基準になります。連邦型組織(各国に独立企業体としての機能を全て持ち、本社はそのとりまとめを行う形態)の場合には、PAAソフトで各国から要約された業績データだけを定期的に収集、分析する方法が、システムを低コスト並びに短期間で導入する方法として考えられます。しかし、調達、生産、物流、販売という機能が、グローバルに配置され、会計以外のデータもグループ企業間で頻繁に交換しなければならないグループ形態の場合には、ERPパッケージでグループ統合システムを構築する方法が適しています。

我が国の企業の多くは、これまで適切な情報収集・経営管理の仕組みを整備しないまま、急速にグローバル展開をしてきました。このような企業は神経網が未発達なまま、体だけが大きくなり、動きが鈍くなってしまった恐竜のようなものともいえます。恐竜は厳しい環境の変化となった氷河期を乗り越えられませんでしたが、日本企業が現在の厳しい経営環境を乗り越えるためには、グループ経営管理体制の整備が、緊急課題といえます。