あずさ監査法人

2011年のIPO動向について

2012.1.25

1.IPO概況

2011年の新規上場会社数は、2年連続で増加し、前年比64%増(14社増)の36社となりました。年前半は、3月に発生した東日本大震災や欧州の財政懸念問題の影響を受けて、全般的に企業業績見通しの不透明感が高まり、新規上場会社数は回復感が乏しい展開で推移しました。年後半になって、それらの影響の見極めが進んだことや、新興市場に上場した一部の会社で投資家の注目が高まったことによる需給の好転などから、新規上場会社数は徐々に復調の兆しを見せ始めました。

新規上場会社数を市場別で見ると、ジャスダック市場が最大となり、東証二部とマザーズ市場はそれぞれ5社増加しました。一方で、地方新興市場は3年連続で新規上場がありませんでした。

新規上場会社の業種数は、前年の11業種から、15業種に増加しました。業種別では、情報・通信業がシェアを伸ばし、約3割を占める結果となりました。最近5年間の各市場別の新規上場会社数ならびに業種別内訳については、以下の通りとなっています。

最近5年間の市場別新規上場会社数(単位:社)
  2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 前年増減
社数 121 49 19 22 36 +14
東証1部 6 2 1 4 2 ▲2
東証2部 7 5 5 2 7 +5
マザーズ 23 12 4 6 11 +5
ジャスダック 46 18 6 9 16 +7
NEO 3 1 2 1 ▲1
ヘラクレス 25 9 1
セントレックス 2 1
Qボード 2
アンビシャス 5 1
その他 2

(注)2010年10月に、ジャスダックはNEO、ヘラクレスと市場統合しています。

新規上場会社の業種別内訳
業種 社数 シェア 業種 社数 シェア
情報・通信業 11 30.6% 化学 1 2.8%
サービス業 4 11.1% 機械 1 2.8%
不動産業 4 11.1% 金属製品 1 2.8%
医薬品 3 8.3% 精密機器 1 2.8%
食料品 2 5.6% 卸売業 1 2.8%
小売業 2 5.6% 銀行業 1 2.8%
電気機器 2 5.6% 空運業 1 2.8%
水産・農林業 1 2.8%      

2011年のIPOの特徴としては、以下の点などが挙げられると思います。

I.業容面での特徴

(i)事業規模が相対的に前年より小粒化

売上高が1,000億円超のIPOはカルビー(東1:菓子・食品の製造・販売)の1社だけで、前年の5社と比較して相対的に小規模な会社の上場が目立ちました。

(ii)バイアウトファンドやMBO案件の上場が増加

  • 駅探(M:モバイルサイト「駅探★乗換案内」等の乗換案内情報の提供)
  • 日本ドライケミカル(東2:消火・防災設備の製造、販売等)
  • アイ・アールジャパン(JQS:IR・SR活動に専門特化したコンサルティング事業)等

(iii)親会社等の事業と関連性のある案件の上場

  • ハウスコム(JQS:賃貸建物への入居者の仲介斡旋等)
  • イーピーミント(JQS:臨床試験を実施する医療機関に対する支援等)等

(iv)2000年以降に設立された会社の比率が上昇

IPOした36社の内、53%〔19社〕となりました。

2010年:36%〔8社〕)なかでも、リブセンス(M:インターネットを利用した情報メディアの運営)は、史上最年少創業社長(25才1ヶ月)としての上場となりました。

II.業種別の特徴

(i)B to C型の情報・通信業の台頭

IPOした36社中、情報・通信業が11社で、31%を占めました。

同シェアの推移(2007年18%⇒2008年22%⇒2009年25%⇒2010年23%)
  • ネクソン(オンラインゲームの制作・開発、配信)
  • KLab(ソーシャル事業、SI事業、クラウド&ライセンス事業)
  • イーブックイニシアティブジャパン(スマートフォン、タブレット端末及びパソコン向け電子書籍の販売事業)

(ii)不動産業の新規上場の回復

不動産業が4社(11%)上場。2010年は実績ゼロ。

従前のマンションディベロッパー事業ではない事業形態の会社が中心。

(iii)バイオ創薬関連会社は4社が上場し引き続き健闘

  • ラクオリア創薬(JQG:医薬品の研究開発及び開発化合物等の導出)
  • シンバイオ製薬(JQG:特定疾病領域における医薬品の開発等)
  • スリー・ディー・マトリックス(JQG:自己組織化ペプチド技術による医療製品開発)
  • カイオム・バイオサイエンス(M:抗体医薬品の研究開発支援等)

III.株価パフォーマンスの二極化が鮮明化

1.SNS事業に関連するB to Cを中心とした情報・通信業が人気化

ソーシャルネットワーク関連等の情報・通信業の一部で、高い成長期待を評価した投資家からの注目を集め、初値が公募価格を大きく上回る事例が増加。

2.バイオ創薬関連会社の株価の不振

先行開発投資の負担が重いバイオ創薬企業については、過去に上場した同業他社の株価動向や、比較的多額の資金調達による需給面への不安などから、初値が公募価格を大きく割り込むか、あるいは上場後に大幅に株価が下落。

(注)東1は東証一部、東2は東証二部、Mはマザーズ、JQSはジャスダックスタンダード、JQGはジャスダックグロースを、事業内容は中心となる事業を抜粋し記載しています。
なお、TOKYO-AIM取引所については記載を省略しています。

2.新規上場会社の分析

(1)売上高

2011年(1月〜12月)新規上場会社分布状況
  東1 東2 マザーズ JQ NEO
〜10億円     4
(1)
2
(1)
 
(1)
6社
(3社)
〜20億円     3
(1)
2   5社
(1社)
〜30億円     2 2   4社
〜40億円     1
(2)
 
(1)
  1社
(3社)
〜50億円         1 1社
〜100億円   1 1 4
(4)
  6社
(4社)
〜150億円   1  
(1)
2
(1)
  3社
(2社)
〜200億円   2
(1)
 
(1)
1   3社
(2社)
〜300億円   2
(1)
  1   3社
(1社)
300億円以上 2
(4)
1   1
(2)
  4社
(6社)
合計 2
(4)
7
(2)
11
(6)
16
(9)
 
(1)
36社
(22社)
最小値
百万円
69,781
(162,332)
8,067
(15,074)
463
(859)
158
(857)
   
最大値
百万円
146,452
(5,225,262)
48,319
(21,523)
6,866
(17,837)
33,464
(104,255)
   
中位値
百万円
108,117
(910,710)
18,186
(18,299)
1,418
(3,631)
6,997
(7,771)
 
(62)
 

( )内は2010年(1〜12月)数値

直前決算期連結(連結なしの場合は単体)

中位値とは各市場上場企業数の上下真中順位企業の数値、複数ある場合は2社の平均

(売上高 ランキング)

【上位5社】
上場日 会社名 業種 市場 売上高(百万円)
3/11 カルビー 食料品 東証一部 146,452
12/14 ネクソン 情報・通信業 東証一部 69,781
6/9 クロタニコーポレーション 卸売業 東証二部 48,319
3/15 アイディホーム 不動産業 JQスタンダード 33,464
12/22 アイセイ薬局 小売業 JQスタンダード 29,564
【下位5社】
上場日 会社名 業種 市場 売上高(百万円)
10/24 スリー・ディー・マトリックス 精密機器 JQグロース 158
12/20 カイオム・バイオサイエンス 医薬品 マザーズ 463
12/7 リブセンス サービス業 マザーズ 637
3/23 ピーエスシー 情報・通信業 JQスタンダード 772
6/23 ディジタルメディアプロフェッショナル 情報・通信業 マザーズ 893

(2)経常利益

2011年(1月〜12月)新規上場会社分布状況
  東1 東2 マザーズ JQ NEO
赤字     1
(1)
3  
(1)
4社
(2社)
〜5千万円        
(1)
   
(1社)
〜1億円       2   2社
〜2億円     4
(2)
2
(1)
  6社
(3社)
〜3億円     1
(1)
 
(2)
  1社
(3社)
〜5億円     1
(1)
3
(3)
  4社
(4社)
〜10億円   2 2 6
(1)
  10社
(1社)
〜20億円   5
(2)
  1   6社
(2社)
〜30億円      
(1)
1
(1)
  1社
(2社)
30億円以上 2
(4)
        2社
(4社)
合計 2
(4)
7
(2)
11
(6)
16
(9)
 
(1)
36社
(22社)
最小値
百万円
9,539
(10,372)
581
(1,188)
▲237
(▲66)
▲1,296
(24)
   
最大値
百万円
28,479
(109,057)
1,383
(1,296)
769
(2,585)
2,093
(2,429)
   
中位値
百万円
19,009
(38,059)
1,169
(1,242)
189
(199)
479
(331)
 
(▲645)
 

( )内は2010年(1〜12月)数値

直前決算期連結(連結なしの場合は単体)

中位値とは各市場上場企業数の上下真中順位企業の数値、複数ある場合は2社の平均

(経常利益ランキング)

【上位5社】
上場日 会社名 業種 市場 経常利益(百万円)
12/14 ネクソン 情報・通信業 東証一部 28,479
3/11 カルビー 食料品 東証一部 9,539
3/15 アイディホーム 不動産業 JQスタンダード 2,093
12/20 新田ゼラチン 化学 東証二部 1,383
12/19 ジャパンマテリアル サービス業 東証二部 1,188
【下位5社】
上場日 会社名 業種 市場 経常利益(百万円)
7/20 ラクオリア創薬 医薬品 JQグロース ▲1,296
10/20 シンバイオ製薬 医薬品 JQグロース ▲638
10/24 スリー・ディー・マトリックス 精密機器 JQグロース ▲510
12/20 カイオム・バイオサイエンス 医薬品 マザーズ ▲237
9/22 ブレインパッド 情報・通信業 マザーズ 74

(3)資金調達額(公募)

2011年(1月〜12月)新規上場会社分布状況
  東1 東2 マザーズ JQ NEO
〜3億円   1 1 2
(2)
  4社
(2社)
〜5億円   2 5
(3)
7
(4)
  14社
(7社)
〜10億円   2
(1)
3
(1)
3
(2)
  8社
(4社)
〜20億円   2 1
(1)
2   5社
(1社)
〜30億円    
(1)
  1  
(1)
1社
(2社)
〜40億円     1     1社
〜50億円      
(1)
     
(1社)
〜100億円 1
(1)
    1   2社
(1社)
〜200億円  
(1)
         
(1社)
200億円以上 1
(1)
        1社
(1社)
合計 2
(3)
7
(2)
11
(6)
16
(8)
 
(1)
36社
(20社)
最小値
百万円
5,928
(7,200)
153
(665)
152
(325)
56
(216)
   
最大値
百万円
91,000
(168,000)
1,500
(2,055)
3,758
(4,800)
6,400
(528)
   
中位値
百万円
48,464
(15,400)
716
(1,360)
446
(482)
435
(424)
 
(2250)
 

( )内は2010年(1〜12月)数値

資金調達額は自己株式処分を含む(売出しおよび公募未実施企業は含まず。公募価格×公募株式数で算出)

中位値とは各市場上場企業数の上下真中順位企業の数値、複数ある場合は2社の平均

(資金調達額ランキング)

【上位5社】
上場日 会社名 業種 市場 資金調達額(百万円)
12/14 ネクソン 情報・通信業 東証一部 91,000
7/20 ラクオリア創薬 医薬品 JQグロース 6,400
3/11 カルビー 食料品 東証一部 5,928
12/16 ダブル・スコープ 電気機器 マザーズ 3,758
10/20 シンバイオ製薬 医薬品 JQグロース 2,856
【下位5社】
上場日 会社名 業種 市場 資金調達額(百万円)
10/21 日本管理センター 不動産業 JQスタンダード 56
10/28 イーブックイニシアティブジャパン 情報・通信業 マザーズ 152
6/29 日本ドライケミカル 機械 東証二部 153
11/29 ベルグアース 水産・農林業 JQスタンダード 185
3/23 ピーエスシー 情報・通信業 JQスタンダード 300

(4)初値時価総額

2010年(1月〜12月)新規上場会社分布状況
  東1 東2 マザーズ JQ NEO
〜20億円       2   2社
〜30億円     1 2
(5)
  3社
(5社)
〜50億円   3 1
(2)
7
(2)
  11
(4社)
〜80億円   3
(1)
5
(1)
2
(1)
 
(1)
10社
(4社)
〜100億円   1 1
(1)
2   4社
(1社)
〜200億円    
(1)
2
(1)
1
(1)
  3社
(3社)
〜300億円      
(1)
     
(1社)
〜500億円     1     1社
〜1,000億円 1
(2)
        1社
(2社)
1,000億円以上 1
(2)
        1社
(2社)
合計 2
(4)
7
(2)
11
(6)
16
(9)
 
(1)
36社
(22社)
最小値
百万円
66,580
(77,413)
3,427
(5,208)
2,394
(3,734)
960
(2,021)
   
最大値
百万円
555,983
(1,600,000)
8,190
(12,075)
32,595
(25,752)
19,635
(19,818)
   
中位値
百万円
311,282
(653,743)
6,473
(8,642)
6,743
(6,580)
3,300
(2,860)
 
(7,455)
 

( )内は2010年(1〜12月)数値

中位値とは各市場上場企業数の上下真中順位企業の数値、複数ある場合は2社の平均

(初値時価総額ランキング)

【上位5社】
上場日 会社名 業種 市場 初値時価総額(概算:百万円)
12/14 ネクソン 情報・通信業 東証一部 555,983
3/11 カルビー 食料品 東証一部 66,580
12/16 ダブル・スコープ 電気機器 マザーズ 32,595
7/20 ラクオリア創薬 医薬品 JQグロース 19,635
9/27 KLab 情報・通信業 マザーズ 19,495
【下位5社】
上場日 会社名 業種 市場 初値時価総額(概算:百万円)
11/29 ベルグアース 水産・農林業 JQスタンダード 960
10/21 日本管理センター 不動産業 JQスタンダード 1,546
3/23 ピーエスシー 情報・通信業 JQスタンダード 2,032
6/23 ハウスコム 不動産業 JQスタンダード 2,198
12/22 ミサワ 小売業 マザーズ 2,394

(5)新規上場時の初値状況について(2011/1月〜12月)

  1〜3月 4〜6月 7〜9月 10〜12月 年間
IPO社数 7社 6社 6社 17社 36社
平均初値騰落率 12.2% 3.2% 74.3% 14.7% 22.2%
(最高騰落率) 98.9% 27.1% 188.6% 123.7% 188.6%
(最低騰落率) ▲36.8% ▲8.0% ▲7.5% ▲42.9% ▲42.9%
公募価格割れ 2社 4社 1社 7社 14社
騰落率は対公募価格比で算出

(初値騰落率ランキング(2011/1月〜12月)

【上位5社】
上場日 会社名 業種 市場 初値騰落率
9/22 ブレインパッド 情報・通信業 マザーズ 188.6%
9/27 KLab 情報・通信業 マザーズ 133.5%
10/28 イーブックイニシアティブジャパン 情報・通信業 マザーズ 123.7%
7/21 モルフォ 情報・通信業 マザーズ 115.1%
3/3 駅探 情報・通信業 マザーズ 98.9%
【下位5社】
上場日 会社名 業種 市場 初値騰落率
10/24 スリー・ディー・マトリックス 精密機器 JQグロース ▲42.9%
3/15 アイディホーム 不動産業 JQスタンダード ▲36.8%
10/20 シンバイオ製薬 医薬品 JQグロース ▲19.6%
12/20 カイオム・バイオサイエンス 医薬品 マザーズ ▲8.1%
6/24 イートアンド 食料品 JQスタンダード ▲8.0%

3.今後の展望

2011年は、国内では未曾有の被害に見舞われた東日本大震災などの自然災害や、対ドルで史上最高値を更新した円高等による混乱に加えて、海外でも、欧州における財政問題、新興国での景気減速懸念、タイの大洪水などの自然災害などによって、企業業績にも多大な影響をもたらしました。このような環境において、 IPO市場は、上場が期待された上場予定会社の一部で、今後の株価見通しへの懸念や、将来の業績不安などから上場時期を見合わせる動きが見られました。しかし、一方では、成長性が大きいと期待されるSNS(ソーシャルネットワークサービス)関連や電子書籍関連などには、投資家からの注目が集まりました。それらの事業分野では上場予定会社が増加しているという意見も聞かれています。また、創業社長として、約5年ぶりに史上最年少記録が更新されたIPO事例が話題となり、若手起業家のなかにも、上場意欲が徐々に戻りつつあるという意見も出始めています。

また、市場活性化の動きでは、「新興市場等の信頼性回復・活性化策の検討について」(金融庁:2010年12月)が公表されるなか、東京証券取引所が「マザーズの信頼性向上及び活性化に向けた上場制度の整備等について」(2010年12月)、「中堅・中小企業のIPO活性化のための上場制度の整備等について」(2011年12月)が公表されるなど、上場制度の整備等による市場の活性化も期待されています。

しかしながら、昨年は、株式市場全般が低迷するなか、経営者によるMBOなどの上場廃止会社数が高水準となるなど、株式市場の活性化への道のりには、依然として厳しい状況が続いており、今後、日本経済が中長期的な成長を果たすには、成長性の高い魅力的な会社が、株式市場を通じて健全に発展していくことが必要不可欠であると思われます。そのためには、証券市場への投資家の信頼の回復はもとより、魅力ある上場予定会社の事業モデルに対する理解の向上や、活用しやすいIPO市場の環境整備などを通じて、投資家から期待される上場予定会社の裾野の拡大と、更なる信頼性向上に向けた、IPO関係者の協力関係が強化されることが重要となってくるものと思われます。

IPOサポート室 鈴木 智博